先週の日曜日(7日)、本HPにファーストリテイリングについて課題をアップした。その後、新聞(日経)、雑誌(アエラ)、テレビ(フジ)などで、ユニクロの野菜事業進出が頻繁に取りあげられている。
ユニクロの野菜ビジネスには、いまのところほとんど実体がない。一個のトマト、一袋のあきたこまち、一本のキュウリが、ユニクロの通販ネットで取り引きされたわけではない。にもかかわらず、メディアの報道はおおむね好意的である。フジテレビは、新事業担当の柚木治執行役員を半年かけて追いかけ、特別番組を制作したほどである。そして、柳井社長は最近メディアに過剰露出ぎみに見える。それは、なぜなのだろうか?
このふたつは、日本経済の閉塞感と無関係ではない。私見ではあるが、ユニクロ野菜事業進出報道は、現状打破に対するひとびとの期待を反映したものであると考える。柳井社長が頻繁にメディアに登場するようになったのは、ビジネスにやや翳りが見えてからのことである。ふつう経営者は事業が好調なときにメディアに登場し、対前年で減収減益ともなれば姿を隠すというのが決まりのようなものである。この点でも、柳井正は異例の経営者である。それは、成功体験への自信であるように見える。
とりあえずの予見をここで披瀝しておくことにする。紆余曲折はあっても、ユニクロの野菜事業は最終的には成功するであろう。その根拠は、以下の通りである。
1.海外からの野菜(原材料)調達ではなく、国内の産地を選んでいること。
2.青果市場においても、中間流通(卸売市場/商社機能)が最大のネックであること。
3.現状を打破するために、SPA(ユニクロモデル)が有効であること。
4.経営者(柳井社長)が新規事業に余計な口出しをしていないこと。
カジュアル衣料でユニクロが採用したビジネスモデルは、野菜市場(産業)でも有効である。(1)商品開発+生産現場と(2)中間流通にコミットして、(3)直販システムで商品を販売するのがユニクロのモデルである。
生産現場を国内に持ってきたことは正解である。国内産地(農家)は、組織的な変革を迫られている。組織変革(農協解体)と経営規模拡大(農地法の運用変更)が中心課題である。これに加えて、環境と食の安全性、健康に配慮した農法に、農業生産技術を変えていかなければならない。そのとき、ターゲットとなる品目で取り組みがしやすい分野は、野菜と米+花である。そう考えると、商品供給源である生産の舞台は、コントロールがむずかしい海外ではなく、あくまでも国内でなければならない。消費者に訴求すべきは、鮮度と安全・安心だからである。
中間流通も深刻な課題を抱えている。卸市場を経由する野菜(穀物)の物流は、もはや限界に来ている。東京近郊の青果市場(たとえば、築地や大田)を朝早く訪問してみるとよい。情報・取引面でも、いまや青果市場は充分な機能を果たしていない。セリ取引での価格形成機能は時代的に役割を終えつつある。商社もしかりである。
カルフールの日本進出、ウォルマートと西友の提携など、外資の脅威があって、日本のスーパーマーケットは提携含みで業務改革を推進しようとしている。しかし、革新の芽は、既存プレイヤー(イオンやIY)ではなく、外から来るのが常である。有力な候補は、ユニクロだけではない。新興ネット企業にも可能性はある。日本のスーパーマーケットで、生鮮品のマーチャンダイジングにおいて優れた成果を残している小売業を筆者は知らない。なおかつ、野菜の市場には開拓すべき大きなチャンスが残されている。深耕の可能性、例えば、アイテム開発、野菜の加工事業、新業態開発は、決して小さくないのである(筆者の「ドール・ジャパン」の事例を参照)。
(1)~(3)まで、同時にすべてを変革しなければならない。それができる経営者と企業は限られてくる。野菜の分野(農業の領域)で、変革の条件は整っている。これが答えである。