【巻頭言】「続・花の名前」『JFMAニュース』(2026年8月20日号)

 ランニングが趣味なので、周囲の人からは「走っているときに何を考えているのですか?」と聞かれることがある。大学の先生だったころは、本の構成や論文のアイデアに行き詰まったときに、困った案件の答えを得るために走っていた。
 アイデア出しのために走るときの問題は、長い距離を走らないとうまい答えが見つからないことだった。それなりの距離(最低10km)を、ある程度のスピード(6分/km)で走る必要があった。ひらめきと脳内の血の巡りとは、いまでも相関があるのだろうと思っている。走るという行為は、脳内に散らばっている情報を結合するのに役に立つはずである。
 というのは、断片化された情報が、長く速く走ることで脳内を素早く移動できるようになるからである。わたしは脳科学の専門家ではないが、そうした脳内のメカニズムは、論理的にも説明できるような気がする。

 ところで、よく知られている花の名前が、瞬時に思い出せなくなるときがある。しかも思い出せない花には、ある種の傾向があることに気づいた。名前が出てこない典型的な事例は、数年前まではハイビスカスとクレマチスだった。脳の研究では、人間の記憶は分散型のネットワークになっていて、単語や概念が相互に関連付けられていることが知られている。ハイビスカスとクレマチスは、わたしの脳内で情報的に孤立していたのだろうと思う。
 ハイビスカス以外にも、名前を覚えるのに苦労している花があった。以下のリストは、2年前の記事である。「花の呼称:女性は和名、男性は学名」『JFMAニュース』(2024年7月20日号)からの引用である。左が学名(英語名)で、右が和名(漢字名)だ。学名と和名の選択率(好まれる呼称)の対比表(%)が、記事中のリストで紹介されている。

  <学名(英語)、和名(漢字)> 
(1)ホスタ(Hosta):16%、キボウシ(葱坊主):66%
(2)スカビオサ(Scabiosa Japonica):30%、マツムシソウ(松虫草):56%
(3)クレマチス(Clematis florida):64%、テッセン(鉄線):25%
(4)ユーストマ(Eustoma):10%、トルコキキョウ(トルコ桔梗):84%
(5)ダリア(Dahlia):84%、テンジクボタン(天竺牡丹):13%

 最後の(5)ダリアを除いて、ホスタ、スカビオサ、クレマチス、ユーストマの4種類は、花の名前(学名)を空で(ヒント無しに)は想起でできなかった。それとは対照的に、わた市の場合は、和名(漢字)の方が思い出しやすかった。
 今回、再掲して驚いたことがあった。商業的に生産されている(4)ユーストマを除いて、残りの4種類の花が、2026年現在、わが家の玄関で花を咲かせていたことである。巻頭言の記事を書いた2年前の夏の時点では、ホスタからダリアまでの4種類の花は、わが家の庭には植えられていなかったのである。
 ところが、2026年の春から夏にかけて、4種類のすべてが玄関脇のプランターに植えられていた。わたしの脳内の記憶のメモリーに、一体全体、何が起こっていたのだろうか? 偶然かどうかはわからないが、上記の4種類の花は、多年生の植物(宿根草)である。そしていまでは、それらの花の名前を学名で、容易に思い出すことができるようになっている。

コメント