「市場の窓」『JFMAニュース』(2021年2月20日号)

 今回の巻頭言は、「市場の窓」というテーマで書かせていただいた。カインズの土屋会長から許諾をいただいての掲載になる。”market window”とは、環境変化でごく短期間だけ到来する市場機会(絶好のチャンス)のことを指す。30年ほど前に、忘れてしまったが、学者さんのどなたかが提唱したコンセプトである。

 

 わたしは個人的に「窓」という言葉が好きである。安房直子作の『きつねの窓』を連想するからかもしれない。マーケティング用語では、「市場の窓」とは、“The interval of time during which a particular type of product can be profitably sold.”すなわち「特定の商品が利益を生み出せる期間のこと」である(以下のコラム参照)。

 しかし、もしかすると、安房直子の作品に出てくる「きつねの窓」(過去)のようなもので、失ってしまった何かを象徴している言葉なのかもしれない。子ぎつねが、猟師に鉄砲で撃たれて死んだ母きつねを見ることができる特別な「窓」のこと。

 そうなってはいけないのだが、、、紫いろの絵の具(おまじない)を指に塗ると見える世界(未来)を希求して、、、

 

「市場の窓」『JFMAニュース』

 文・JFMA会長 小川孔輔(法政大学経営大学院教授)

 

 ホームセンターのカインズが運営しているWEBマガジンからのリクエストで、事務局長の松島さんと一緒にインタビューを受けることになった。JFMAの麹町事務所で受けたインタビューの記事は、2月15日から、同社のWEBサイト「となりのカインズくん」(https://magazine.cainz.com/article/29876)で公開されている。
 インタビューの様子と取材の内容は、『JFMAニュース』(2020年12月号)ですでに紹介してある。初校のゲラが送られてきたのが二週間前のことだった。想定よりも長めの立派な記事で、ライターの方がJFMAの歴史や成り立ち、花業界に対するわたしたちの想いを上手にまとめてくださっていた。

 

 「となりのカインズくん」では、通常の特集記事に100万PV前後のアクセスがあるという。JFMAの存在と取り組みを知ってもらうために絶大な告知効果があると思われる。そのお礼にと、声がけをしていただいたカインズの土屋裕雅会長にお礼のメールを送ってみた。東日本大震災の余震で、関東地方で震度4の大きな揺れを感じた翌朝のことである。

 「昨夜の揺れはすごかったですね。こんな記事が、カインズさんのネットに掲載されています。“となりのカインズさん”からインタビューを受けました。自分たちの20年間の活動をコンパクトにまとめていただきました。ありがとうございます」(小川)
 返事がすぐに戻ってきた。「となりのカインズさんのインタビューに応えていただきありがとうございます。花のあるライフスタイル追求のために何か大きなことをやりたいですねー」(土屋さん)。このあとも、しばしLINEで行ったり来たりのやり取りが続いた。
 「そう、今が大チャンスだと思います。ホームユースが大きく伸びる気配があります。一昨日のフラワーバレンタイン、
かなり定着してきています。日曜日で花店の商売にマイナスなんですが、結構、みなさん健闘していました。植物はすご
い伸びですね」(小川)
 この後に続いた土屋さんのコメントに、わたしは大きく気持ちが動かされた。
 「アフターコロナになる前にこの習慣を定着させたいですよね。と考えると早くやらないと、窓が空いてる期間は短いかもです」(土屋さん)

 

 マーケティングの専門用語に、「市場の窓」(market window)という言葉がある。市場の窓とは、“The interval of time during which a particular type of product can be profitably sold.”すなわち「特定の商品が利益を生み出せる期間のこと」である。今回の新型コロナウイルスの感染拡大のように、大きな環境変化で市場の様相が激変するときに突如、新しい市場機会が生まれる。しかし、当事者たちがそのチャンスを見逃してしまうと、ほんの一瞬で「市場の窓」は閉じてしまう。
 土屋さんの発信は、そうしたチャンスを見逃す可能性を指摘してのことだった。「命短し恋せよ乙女」という言葉もある。みすみすのチャンスを無駄にしてしまう愚を犯さないように。その警鐘ともとれる。わたしたちは、業界人として何ができるだろうか?今年の新春セミナー(1月19日)では、「ホームユースを伸ばすには?」というシンポジウムを開いた。

 

 その先に打つべき手は何だろうか?マーケットの窓が閉じる前に、積極果敢に攻めなければならない。しかし、具体的な「大きなこと」が思い浮かばない。このままでは絶好のチャンスを逃がしてしまいそうだ。読者の皆さんは、どう思われるだろうか?