私事になるが、4年前に亡くなった母親の墓参りのため、8月中旬に秋田に帰省した。生まれ故郷の能代市の海岸線には、「風の松原」という風光明媚な松林がある。小川家の墓は、その松原に隣接する砂丘の上にある。
秋田駅で借りたレンタカーを、国道7号線脇の地元スーパーの駐車場に停めた。お線香と仏花を調達するためである。お盆シーズンなので、地元の買物客だけでなく、店内にはコロナ明けで久しぶりで帰省した客もいるようだった。店内はとても賑わっていた。
お供え用の仏花が置かれている花売り場は、いままで見たことがないほどの混み具合だった。隔年のペースで帰省しているが、これほどの店内の活況と、花売り場のボリューム陳列を見た記憶がない。
品揃えはシンプルで、小菊にカーネーションかリンドウ、それにグリーンを添えたものだ。とくに珍しい花は使っていない。4本組1束で、値段は580円。1本あたりで計算すると、150円弱。支払金額は、花束を対で購入すると税込み1350円ほどになる。これにお線香を入れると、2千円ほどの出費だ。5年前と比べると、花の値段が2割ほどアップしている。
東京都の最低賃金が、いまは時給で千円を超えている。ところが、たまたま目にした人材募集広告によると、秋田名物の「ババヘラアイス」(国道沿いでアイスシャーベットを販売するアルバイト)のおばさんの時給が790円だった。標準的な賃金に対して、地方でも花の値段は上がっていることがわかる。
都内の市場関係者に、帰郷中に観察したスーパーの活況と墓地の賑わいの話をしてみた。「墓参りのスーパー需要の件ですが、全国的にその傾向があるようです。天気が不安定で、地場産の商品が供給不足。道の駅の商品が品薄であったことが1つの理由のようです」とのコメントが戻ってきた。
8月の上旬に、別件で仙台にあるコンビニの支社をインタビューで訪問することがあった。そのときも、市内の地元スーパーに立ち寄ってみた。秋田のスーパーと同様に、仙台のローカルスーパーの花売り場もやはり盛況だった。以下は、わたしの仮説である。
直売所の販売データと複数店での現場検証ができていないので、あくまでも個人的な推論である。コロナ明けで人の流れが回復したことで、他の農産品と同様に花の値段も高くなっている。
国産の花が生育不良で、輸入商材中心の卸市場経由の花が増えたのではないのか。全体的に品不足だったので、全国的な供給網が構築できる市場流通が主流となり、結果的にスーパーに卸市場から潤沢に商品が供給された。消費もそちらに集中したものと思われる。
この傾向が今後も継続するかどうかについて、確かなことはわからない。しかし、コロナ明けの数年間は、仏花需要が底堅そうだ。数年前のコラムで、仏花の将来を悲観的に見ていた。仏壇を持つ家庭が減少して、これだけ家族葬が増えているから、いずれは仏花の需要が激減するだろうと予測した。しかし、現実はそこまでは行ってはいないようだ。日本人の信仰心が、わたしが思っていたほどには劣化していないようなのだ。