本日配信の「ワークマン、社外取締役候補にユーチューバー」(https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC021B40S3A500C2000000/)で、人気ユーチューバーの浜屋理沙さん(愛称、サリーさん)を、ワークマンが社外取締役に推すことを発表した。なんと!わたしも株主なので、ワークマンの定時株主総会に出席する権利があった。いまからでは出席が叶わず。知っていたら、スケジュールを調整できたのに。
ところで、ワークマンの林知幸氏(広報部長)を招いて、5月23日(17時~)に、「ワークマンから学ぶ、顧客理解と顧客体験デザイン ~アンバサダー・マーケティングによる商品開発と情報発信~」というセミナーを開催することになっている。セミナーの当日、わたしはコーディネーターを担当する。
そんなわけで、あまりのタイミングの良さに、びっくりしたわけである、セミナーのため、先々月末には、「ワークマンのアンバサダー・マーケティング」という事例を書き下ろしたばかりでだった。この事例の後半部分(事例Ⅱ)で、社外取締役に推薦されているユーチューバーのサリーさんが登場している。
「アンバサダー・マーケティング」の仕組みを考え出したのは、ワークマンの土屋哲雄専務と林知幸広報部長のチームである。しかし、具体的にワークマンと共同でヒット商品を生み出せたのは、サリーさんのような協力者(アンバサダー)たちの功績である。その代表者のサリーさんが、今回は社外取締役に推挙されたわけである。
ここでは、ワークマンの事例(BY小川)から、前半の部分(事例Ⅰ)を紹介することにしたい。
アンバサダー・マーケティングの仕組みに興味を持たれた方は、「ワークマンから学ぶ、顧客理解と顧客体験デザイン」へのセミナー参加をお勧めしたい。
申し込みは、https://form.k3r.jp/intage/cx_seminarから。
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「アンバサダー・マーケティング」
事例:ワークマン(Ⅰ)
文・小川孔輔(法政大学名誉教授)
<業態の限界突破し、顧客層を拡大する>
2019年9月5日、ワークマンの広報部から、「過酷ファッションショー」という新商品の発表会に招待された。店舗ブランド名が示す通り、ワークマンは、建設土木工事業や農林水産業など、専門業者向けに作業服やユニフォームなどを企画販売しているチェーン店である。2010年ごろまでは、プロ向けの機能性訴求商品を、NBメーカーから調達して販売していた。
ファッションショーの発案者は、創業家ファミリー出身の土屋哲雄専務である。三井物産から転職してきた土屋氏は、専門業者向けの業態だけでは、1000店舗を超える辺りから出店余地がなくなることを憂慮していた。そこで、小濱英之社長(当時は商品部海外商品部長)が2010年に着手しはじめていたPB商品のラインを拡充し、同時に「顧客層を拡大すること」を宣言した(土屋哲雄、2020)。
2016年9月、ワークマンは手始めに「ブロガー向けの商品発表会」を開いて、情報発信に努めるようになった。バイク乗りや、釣り、ハイキング、トレッキング、キャンプで使える新作20点を集めてブログで紹介してもらい、製品の認知度を高めることが狙いである。
新作発表会を開いたきっかけは、2013年に発売された「イージス透湿防水防寒スーツ」だった。2016年ごろ、厳冬期の防寒服として販売されていたブランドを、バイク乗りたちがSNS(ツイッター)で、高機能で低価格(6800円)のバイクウエアとして紹介していた。
想定外の顧客層と新しい用途の発見は、POSデータの異常値(対前年比で販売量が数倍になる)を分析することで明らかになったことである。自社が想定していなかった用途を発見したことを契機に、「作業服」を売る会社から「機能性ウエア」を販売する会社に、自社のポジショニングを見直すことになった。
翌年(2017年)から、まだ顕在化していない生活者の要望を、製品の用途開発に活かすため、開発者に大幅に権限を委譲することにした。しかし、生活者の知見をワークマンの社員が持っているわけではなかった。そこで、社外(アウトドアライフに知識があるブロガー)にその知恵を求めることにした。
<新作発表会の進化プロセス:情報発信に開発機能を付加する>
当初は、商品開発に参画するというよりは、ブロガーに新作の情報を提供し、それをSNSで拡散してもらう発表会の形式だった。ただし、ブログで取り上げた商品にオンラインストア経由で注文が入ると、ブロガーに売上の5%を還元するというアフリエイトプログラムを展開していた(酒井大輔、2020)。しかし、このインセンティブ付与のやり方は、のちに見直されることになる。
一方で、発表会に集まったブロガーの要望を取り入れ、自社商品を改良してみた。結果的に、翌年に発売した商品は、前年より明らかに売れ行きがよかった。そこで、発表会を春と秋の年2回で定番化し、2018年以降は、「インフルエンサー向けの商品発表会」と名称を変えることになった。
新作発表会に集まったメンバーには、2つの役割が期待された。ひとつは、製品の用途開発に対する意見やアドバイスを提供すること。もうひとつは、新作に反映された改良点や新しい機能を情報発信する役割だった。
(*事例Ⅱに続く)