富山わさびプロジェクト、糸魚川の現地にて思わぬ栽培法の提案

 昨日のブログで紹介したように、世界的な育種家の坂崎潮さんと、新潟県糸魚川市までわさびの栽培施設を訪問してきた。いま自宅に戻ってきたところだ。約2時間の栽培施設の視察で、坂崎さんに栽培環境とプラグ苗の生育状況を診断していただいた。SKさんの温室で、病気の発生が心配の種になっていた。

 

 わたしたちのプロジェクト(富山の美味しいわさびプロジェクト)は、製販一体型の農業フランチャイズを目指してきた。しかし、病気の発生で、FC事業化がとん挫する一歩手前にいた。さすがに困り果てたわたしは、ご自分でもわさびの育種を一部手掛けている坂崎さんに、助けを求めた。三週間ほど前のことである。

 現地入りした坂崎さんは、施設を視察する前に、渋谷社長に「糸魚川でわさびを栽培することになった経緯」と「現在の栽培状態」の説明を受けていた。昨日は、ちょうど出荷日に当たっていた。社員さんとパートさんが、お花のついたわさびの茎を束ねていた。坂崎さんは、社員さんたちにもいろいろと質問をしていたようだった。

 

 つぎに、出荷作業場で、栽培環境ストレスのためだろうと思われるが、アントシアニンで赤変した根茎の様子をみていただいた。ナイフで根茎を輪切りにしたら、維管束が赤く染っていた。どの根茎も例外なく、赤く丸い斑点がついていた。一部には黒くなった根茎もあったが、すべて染まっているのは維管束部分だった。

 坂崎さんの診断と並行して。岐阜大学の山根京子先生にも、根茎の切断面の写真を送った。

この症状には、どのような原因が考えられるかを見てもらった。長野の大王わさびも、出荷停止になった理由は、以下の①のようだった。

 お二人の診断を総合すると、考えられる原因は、①炭入り病による根茎(維管束)の黒変(赤変)、②高温障害でストレス負荷がかかり、アントシアニンが出現した。そのうちのどちらかだろうということになった。最終的な結論はまだ出ていないが、病状がほぼ確認できて対策が考えられる状況には近くなった。

 

 温室に入ってからの坂崎さんは、(私の観察で)目がらんらんと輝いてきた。渋谷方式(融雪設備を活用した地下水による点滴栽培)で育った巨大わさびを見て、坂崎さん嬉しそうに言った。曰く、「SKフロンティアさんのわさびは、素晴らしい! 考えられる最高の条件で、植物(わさび)が育っている」。素晴らしいの連呼だった。

 長さが30センチ級のわさびを見るのは、坂崎さんとしては初めてだったらしい。わき目が4本、中心の根茎のサイドに伸びてくる。そのサイズにもびっくりしていた(15センチから20センチ)。病気の原因を突き止めるために、わたしは坂崎さんを糸魚川まで招へいした。一方で、坂崎さんは、施設内の環境とそこで大きく育っている植物の様子を丹念に見ていた。

 いや、温室内で育っている植物から、坂崎さんは元気をもらっているように見えた。植物が大好き人間だからだろう。SKさんの栽培方式で見事に育っているわさびの様子に、感嘆の声を漏らしていた。病気の症状はさておくとして、わさびは考えられる最善の状況下で丈夫に育っているらしかった。

 

 施設を視察のあとで、坂崎さんから渋谷さんに思わぬ提案があった。SK方式で育つわさびは、根茎が大きく太く育つ(最大30センチの長さと太さ)。しかし、市場のニーズは、巨大なわさびではない。とくに食品スーパーなど量販店で市場を創造するには、わさびはもっと小さくてよい。

 一つの苗から本数をたくさん収穫する方法があれば、そちらが量販のニーズにはあっている。その数を増やす方法を、坂崎さんが具体的に提案してくれたのだった。渋谷さんは驚いていたが、わたしは花苗の栽培を知っているので、とくには驚ことはなかった。

 これ以上は、企業秘密なので情報は公開できない。これから坂崎提案にしたがって、テストを繰り返すことになる。その場で、わたしが「サボテン栽培方式」と命名した栽培方法は、考えてみればイノベーションではある。瓢箪から駒だった。

 

 本日から実験が始まることになっている。成功すると、わさびの既存市場に大変革が起こることになる。テストの結果は、数か月で判明する。5月には、サボテン方式が事業化できるかもしれない。思わぬ副産物が生み出されたものだ。

 病気の原因を診断してもらうため、坂崎さんを糸魚川に連行した。しかし、究極は、富山のわさびプロジェクトに決定的な援護射撃をしてくれたことになる。北陸の地に、日本わさびの将来が楽しみなタネをまいて、彦根に戻っていった。