「12年目のフラワーバレンタイン」『JFMAニュース』2023年2月20日号

 東日本大震災の一ヶ月前、2011年2月14日は、関東地方は大雪になった。男性から女性に花を贈ろうという「無謀」とも思えるキャンペーンをはじめた日は、天気予報が当たって最悪の天候になった。ふだんの日でも、雨や雪が降ると花は売れなくなる。

 

 あれから12年。干支が一回りして、2023年はふたたび卯年を迎えた。フラワーバレンタインの12年目は、神様が味方をしてくれた。全国的に好天に恵まれ、花屋さんの店頭ではバレンタインギフトの花束がよく売れたようだ。

 日本人のほぼ誰も知らない欧米の習慣(バレンタインに男性から女性に花を贈る)を根づかせることは至難の業だった。2010年に、JFMAのプロジェクトとして企画(新しい物日の創出)の検討がはじまり、「フラワーバレンタイン推進委員会」が組織され、花業界が一丸となってキャンペーンに取り組むようになった。 2014年に「花の国日本協議会」が組織され、いまではフラワーバレンタインの認知が広がってきている。

 いまでも思い出す瞬間がある。それは、JFMAで新規プロジェクトのミーティング(@法政大学経営大学院)で、「新しいキャンペーンを一年のどの日に定めるべきか」を議論していたときのことだった。その会合で、「バレンタインデーでチョコレートが定着しているのだから、ホワイトデーを男性から女性に花を贈る日にしては」という提案をした人がいた。

 現実的な意見ではあったが、ホワイトデーの返礼に、男性から女性に様々なプレゼントが贈られていた。その中で花が選ばれる必然性が高いとは思えなかった。ハンカチやセーター、宝飾品やレストランでの食事と、花が競い合うことになる。わたしが感じたのは、新しい市場を創造するのではなく、物販でシェアを取り合う競争に陥ってしまう。

 決め手になったのは、世界標準という考え方だった。バレンタイン発祥の地であるヨーロッパでは、男性から女性に花を贈る習慣が根付いている。それなら、花贈りの文化を借用するという枠組みから、フラワーでバレンタインを祝う方が自然ではないだろうか?わたしはそう感じて、ホワイトデー案に難色を示した。結果的に、いまでは日本でも2月14日が花贈りの日になりつつある。それでもまだまだ課題は多いと思う。

 今年もわたしは、家族や友人の女性たちに、少なくない数の花束をプレゼントした。そして、贈ったブーケの写真を、個人のインスタグラムに投稿してみた。写真を見た全国のフォロワーの方から、花贈りについてコメントをいただいた。そのときに気づいたことがあった。

 一つは、新聞やテレビの報道やSNSで、花束についての書き込みが「西高東低」だったことである。今年の報道で一番目立ったのは、JR博多駅の駅長さんが、駅構内で赤いバラを乗客に配ったことだった。

 わがインスタグラムへのコメントは、それとは逆だった。関東以北、とりわけ東北地方や北海道の女性のフォロワーさんから、「フラワーバレンタインの行事は知りませんでした。でも、先生のような男性から、バレンタインに花を贈られるのは素敵なことですね」というコメントが多数寄せされた。まだまだフラワーバレンタインの運動には課題も多いようだ。しかし、まちがいなく、男性が女性に花を贈る習慣は、フラワーバレンタインの運動が作り上げてきた貢献が大きい。