Magic Number 80(万人)と日本農業衰退論の誤解

 秋田の地元新聞『北羽新報』にコラムを書いた日に、日経新聞に「消防団員、初の80万人割れ」という記事が出た。同じ日に、読売新聞では「出生 初の80万人割れへ」という記事が出ていると教えてくれた人がいた。本日、あるプロジェクトの講演資料を作成するため、販売農家数の推移を調べていたところ、新たな「80万人割れ」を発見した。

 

 農水省の定義によると、「販売農家」とは、「栽培面積30アール、販売金額50万円(/年)を超えている農家」のことを指す。その農家数が、昨年(令和4年)で、97万5千軒となっていた。ご存じのように高齢化が進んで、年平均で約4万軒が農業生産から離れていく。あと3年もすれば、販売農家数は80万軒を割りそうな気配ではある。

 またしても、マジックナンバー80万(人・軒)の登場である。数字の「八」は末広がりで、一般的には縁起がよいと言われている。しかし、いまや日本では、「80(万)」は、産業や社会の「衰退の指標」と言える。

 3つの新聞で紹介されていたように、消防団員の数も、生まれてくる子供の数も、販売農家の数も80万人(軒)を切っている。いや切りそうになっている。

 

 ところで、農家数の減少について、世間一般ではその先につぎのようなコメントが続く。「このままだと、日本では農業を継ぐ若い人がいなくなる。日本の農業が衰退してしまう」。新規就農者のデータを見ると、定年退職した人が始めている農家数が、若者の就農者より多いという、厳しい現実がある。

 たしかに新規に農業に参入する人が増えていないのは、現実の問題としてある。しかし、つぎのことを忘れてはならないと思う。農業生産法人など、法人の経営体は増えているのである。具体的にいえば、令和4年で、団体経営の農業生産法人の数は、3万2200である。前年に比べて、法人数が1.9%増えている(農業動態調査:農水省)。また、平均的な栽培面積も規模が大きい。

 50年前を思い出してほしい。小売業はほとんどは零細経営の商店だった。それが、いまやチェーンストアが販売のほとんどを占めている。売上高50億円のビッグストア(839社:日本リテイリングセンターの定義)で、小売業の全売上高(約150兆円)の80%を占めている。

 

 同じことは、ずいぶん遅れてではあるが、農業分野でもいずれ起こることである。なぜなら、個人農家の事業承継率が低いことと、農業の生産性を高めることが農業分野でも必須だからである。

 もちろん小規模な農家が残存することは、商業分野と同様である。特徴ある個人経営の専門店は、全国にいまだ健在である。しかし、ほぼ10年以内には7割の販売農家は、出荷者として市場から退出することはまちがいない。その穴を埋めるのは、まちがいなく法人経営になる。

 中 規模の優良農家(久松達央氏の言う「小さくても強い農家、農業」)は生き残ることができるだろうが、産業の中心は大規模農業経営に移行していくだろう。農業が産業として衰退することはない。自動化や栽培技術の向上、先端的な育種によって農業の生産性が向上するはずである。