Picture Power:「消えゆくコロラド川を訪ねて」(The Dying River)

 愛読している『ニューズウイーク日本語版』の最終ぺージに、”Picture Power”というセクションがある。プロカメラマンが撮影した写真を通して、社会問題や経済危機、過酷な戦争の現実などを「写し撮る」コーナーだ。カラー写真とキャプションで5ページ、約10枚の写真画像が伝えるメッセージは、とても刺激的である。

 

 今週号(2022年12月6日号)のテーマは、「消えゆくコロラド川を訪ねて」(The Dying River)だった。アメリカ南西部の住民約4000万に水を供給しているコロラド川が、気候変動と水の多消費が原因で消えてしまいそうになっている。その現実を一群の写真で伝えている。コロラド川は、ロッキーマウンテンに端を発する全長2300KMの赤い色の河である。

 ”Colorad”は、そもそも”Colored”(色がついた)が語源である。コロラド川は、米国中部の国立公園地帯に水源をもつ。そこから流れ出る川は、コロラド州の急峻な山岳地帯で山を削り、ユタ州やアリゾナ州では乾燥した砂漠地帯を流れてくる。そのため、河は赤色で淀むことになる。とはいえ、生活用水も農業用水も、水力発電や工業用水もすべて、住民たちの生活はコロラド川の水に依存している。

 1960年から始まる流域(例えば、ラスベガスのあるネバダ州やアリゾナ州)の人口増やロサンゼルス周辺の都市化・工業化は、カリフォルニア湾に注ぐ最後の160Kmを、しばしば「水なし川」に変えてしまった。2000年代に入って乾燥が常態化している。

 

 写真のキャプションを見てみる(以下は、小川が編集)。

 牧場主は、川が干上がって牧草を生えなくなったため、畜産業からの撤退を考えざるを得なくなっている(写真1)。養蜂業者も、降雨量が減少して巣箱に水を散布するようになった(写真6)。アメリカ映画に出てきた風景:乾燥地帯で大量の水を使用する綿花栽培は、水不足の原因として社会的な批判に晒されている(写真7)。観光レジャー産業(パウエル湖のボート)は、湖が干上がったおかげで、自らのビジネスも干上がっている(写真8)。

 日本ではあまり知られていないが、いまや米国の中西部から南部の農業地帯は、歴史的な水不足に見舞われている。Picture Powerは、その実態をシリアスに映し出している。農業政策の立案者たちに向けては、差し迫った困難に対して警鐘を鳴らしている。

 世界的に見て、低生産性と言われる日本農業だが、水利用に関しては優等生なのである。というか、水不足を心配することはあっても、それは短期の日照り続きに限定される。北米の米国やカナダ、南米諸国のように、気候変動と都市化で水が手に入らない状況とはわけが違っている。

 

 日本人のほとんどは、The Dying River(川が消えてしまう)という現実には、リアリティを感じることができないだろう。都市化で人工的に海や川が埋め立てられることはあっても、自然現象で川か消えてしまう事態はありえない。

 しかし、温暖化や都市化や人口増で、ほんとうに地面から水が消えてしまうことは、日本以外の国では現実的に起こっていることである。ある意味で、食料自給率が37%の日本農業に関して、こうした水源確保の優位性が、将来において大きな果実を国民にもたらすことになるかもしれない。

 「ニューズウイーク日本語版」の最終ページを飾っていた乾燥地帯を見ていて、そのように感じた次第である。台風は恐怖であり、梅雨は鬱陶しいが、それらは日本国民とっては「恵みの雨」になることを忘れてはならないだろう。