退陣した安部首相は、ふたつのプロジェクトを残して官邸を去った。「農産物の輸出プロジェクト」と「サービス生産性向上のプロジェクト」である。農業部門とサービス産業部門は、どちらも日本が海外とくに米国と比べて生産性が著しく劣っている産業分野である。国際的に見て「比較劣位」にあるふたつの産業部門の効率を高めることは、日本経済にとって喫緊の課題である。危機感を抱いた霞ヶ関の官僚たちが、ふたつの協議会を立ち上げたのだと思う。
偶然にも昨年度、わたしは安部首相の「置き土産」にふたつともおつきあいすることになった。農産物の輸出プロジェクトについては、JFMAとしては主に松島専務理事が関与している。昨年度は、「切花の中国への輸出」(上海地区)の委託事業も受けることになった。JFMAの会員の皆さんにも協力を仰ぎながら、その成果の一部は「JFMAニュース」でも伝えられている。アジア通貨に対してやや円安にふれてはいるが、「物流コストの壁」(オランダの約二倍)と「現地販売チャネルの確立」(日本ブランドの店舗)の課題が解決できないと、切花の輸出事業は簡単ではない。ただし、アジア地区への農産物輸出に関しては、リンゴや梨、お米で成功例が出始めている。長期的には、切花や鉢物の輸出事業は、今後も挑戦する価値がある事業ではあるだろう。
もうひとつの「サービス生産性協議会」(経済産業省が主幹)のプロジェクトでは、「顧客満足度指標(CSI)策定委員会」の座長を拝命することになった。ほぼ一年間、月1~2回のペースで委員会が開催された。研究者で組織される「CSI開発グループ」に加えて、実際に指標を活用する「企業グループ」(伊勢丹、イオン、ANA、松下など10社)の面倒をみることになった。
こちらの委員会のミッションは、農産物輸出プロジェクトとは異なっていた。サービスの生産性は、「輸出先として中国」のような商売相手がいるわけではない。基本的に、国内問題である。座長としてのわたしの仕事は、国内のサービス企業の生産性を客観的に測定することである。パイロット調査では、百貨店と総合スーパー、フィットネスクラブの生産性を業界横断的に比較してもらうことになった。生産性向上のための改善提案を企業に報告してもらうためである。
製造業で実施されている「品質改善のサイクル」を、サービス業でも普及させることが究極の狙いである。そのために、国際的にも通用する「顧客満足度指標」のパイロット調査を実施した。試みはじまったばかりである。2008年度は、ネット調査用のモデルが開発され、2009年3月には、顧客満足度指標の企業ランキングが発表される予定である。