クリエイターたちの日常:よく歩き、よく観察し、よく話し、そして、よく学ぶ。

 先週の火曜日(8月2日)、「JFMAフラワービジネス講座」の講師に、青山フラワーマーケットの江原久司さんをお招きした。ここ数年は、江原さんの講座は、シリーズの定番になっている。江原さんには、「青山フラワーマーケットのブランドクリエイション」の話をしていただいている。一般的には、花業界でのブランド構築がテーマになる。

 

 江原さんのお話は、毎年、少しずつ話の内容が変化していく。未来永劫、不変なブランドなどありえないだろう。良いブランドは少しずつ変化すべきである。そして、基本にある考え方は、「現場に、青山FLOWERのブランドをどのように落とし込んでいくか」である。江原さんの講義を、わたしはいつもそのように聴いて理解している。

 往々にして、クリエイターたちの話は難解なことが多いが、江原さんの話はシンプルで明快である。「青山フラワーマーケットのブランディング」がどのようなコンセプトでなされているのかを、ごくシンプルに語ってくれる(以下は、わたしの解釈である)。

 

 青山フラワーマーケットのブランドは、「手軽さ」(カジュアル)と「上質さ」(クオリティ)のバランスの上に成り立っている。当日のパワポの一部を、そのまま引用させていただく。「手軽さ」の中身は、買い求めやすい商品、価格バリエーション、そして、立ち寄りやすい雰囲気とサービスで、内容的には、デイリー向けの商品提案ということになる。

 一方で、「上質さ」の中身は、専門性、オリジナリティの高い商品、デザイン性の高い商品、きめ細やかなサービスとなる。一見矛盾しているように見える2つの要素を、上手にバランスさせているところが特徴である。

 しかし、ブランドの進化プロセスから言えば、2015年までは、カジュアルな手軽さが、青フラのブランドのコアバリューだったと考えられる。そこをリードして整理してきたのが、江原さんの貢献である。その役回りを、江原さんに任せた井上英明社長の判断は流石である。

 井上さんの良いところは、人を見る目があることである。パリの伯野さんにしても、ロンドンの宮崎さんにしても、目利きの慧眼である。この20年間で、ご本人も「青フラ」のブランドと一緒に成長してきた。とりわけ、組織運営と理念構想力の成熟がすばらしい。どこまで変化を続けることができるのだろうか?

 

 さて、江原さんの話の中心は、「青山フラワーマーケットのクリエイション」だった。商品企画開発の例(ブランドクリエイションの中身)を、具体的に話してくれている。ブランド改革の基本は、3つの項目から構成されている。

 すなわち、①リブランドプロジェクト (2015年より)、②季節行事や仏花の強化、③オリジナル商品の開発。この3つである。その基軸となっているのが、店舗商品の3つの軸(ライフスタイルブーケ、マルシェコーナー、AFM青山フラワーマーケットスタイルブーケ)である。

 ライフスタイルブーケは、昔からみると「ナチュラルテイスト」を強調している。マルシェコーナーは、店舗の中心に昔からあったものだが、「旬」を訴えるコーナーとしてコンセプトが整理された。その整理を担当したのが江原さんである。最後の、スタイルブーケは、上質さとイノベーションを象徴するものである。

 

 ビジネス講座では、以上を70分強で話してくださった。最後に、Q&Aの時間が来るのだが、今回は、わたしから江原さんに質問してみた。「クリエイターとして、日ごろからどんなことを意識していますか?」が、わたしからの質問だった。というのは、ブランドの創造は、クリエイターたちの日常の生活から生まれると思うからだ。

 案の定、新しいアイデアや商品は、自店舗や花という商品以外の観察や体験から生まれていた。そうなのだ。クリエイティブな人たちの日常を観察していると(インタビューすると)、必ずや、次の言葉が出てくる。

 彼ら/彼女たちは、実によく街を歩いている。そして、周りをよく観察している。誰彼となく、たくさんの人たちとよく話している。そして、本を読んだり、各種メディアを通して知識を仕入れたり、とにかくよく学んでいる。わたしもそうだが、食べることや遊ぶことや話すことにとても熱心だ。

 クリエイターたちの日常は、だから、よく歩き、よく観察し、よく話し、そして、よく学ぶことから構成されている。

 

 最後に、わたし(わんすけ先生)の日常が、どのような活動から構成されているのか。自分が好きなことをリスト化してみた。これは、ある種、知的なクリエイションのためにしている行動だ、と自分では考えている。江原さんには、賛同していただけるだろうか?

 

1 美味しいものを食べる

 チェーン店もあるが、主として個人の店やレストランで。しかも、同じ店で頻度高く食事を楽しむ。そして、たまに珍しい場所や店に足を運ぶ。いつも、8割の繰り返し(リピート)と、2割が新規(トライアル)の適当なバランスを考えている。

 なお、最近では、自分でも料理をするようになった。自分で調理することで、美味さがさらに美味しく感じられるようになった。たしかに料理が上手なひとには、腕のよいエンジニアや創造的な仕事をするクリエイターが多い。自分はそこまではいかないが、素材を探してきたり、大根を切ったり牛肉を捌いたり、色彩り豊かにサラダを盛り付けることは好きだ。いや、ABCクッキングスタジオに通っているうちに、料理が好きになったのだ。

 料理を作ったり、食べたりすることは、おもしろい物語を書くことと同じだ。美しい文章を書くことは、料理をデザインするようなものだと思う。

 

2 様々な分野の人と話す

 わたしは、一般の人よりたくさんの人的なチャネルをもっている。性別、年齢、趣味・嗜好、ライフスタイル、国籍、職業、住んでいる場所など、マーケティングで言うところのデモグラフィックスは、実に限りなく多様だ。そうした人たちと時間を共有するにとで、生活に飽きるということがない。

 情報交換のメディアも、①対面での会話、②電話、③メール、④SNSなど多様である。メディアも話す相手も、決して偏らないように注意している。バランスが壊れると、精神衛生上もよろしくないからだ。情報に偏りが出るし、左脳と右脳のバランスが壊れる。

 誰かが、わたしのことを「リベラル(な人)だ」と評価していた。リベラルという表現は、最高の誉め言葉である。わたしは、どんな人とでも、多様なテーマでおもしろく話ができる。「この世の中に、(話が)つまらない人などいない」と思う。みなさんが興味深い人生をおくっているからだ。だから、誰と話しても会話に詰まることがない。

 

3 上質なブランドを身に着ける

 アルマーニやゼニアのような、高価なブランドで着飾っているわけではない。そんなにお金持ちでもないからだ。具体的に、ヘビーに使っているブランドは、アローズとユニクロである。ときどきは、ライトオン、ナイキやアシックスのようなスポーツブランドをふだん着にしている。

 カラリスト協会の上田先生の推奨によると、パーソナルカラー(個人に似合う色)の選択には特徴があるようだ。日焼けして肌の色が黒いので、ピンクやイエロー、淡いグリーンや水色が自分に似合っているように思う。この頃は、ユニクロやアローズの女性コーナーをのぞき込むことがある。怪しい興味からではない。痩せているので、女性用のサイズでも体にフィットする。

 4年ほど前に下町に移住した。なので、着物を着る機会を増やしている。コロナでもなければ、もっと着物や浴衣で外出する機会を増やしたいものだ。本当は、これでお三味線でも習えたら最高だ。教えてくれる人を探している。話がそれてしまった。

 

4 自然の風景の中を走る

 厳密にいえば、この表現は正しくない。わたしにとって、東京の下町や地方都市の市街地も、「自然」に含まれるからだ。地方都市のマラソン大会で走るときは、前後にもっと山の中(秘湯)に入って、フィトンチッドをたくさん浴びることにしている。森の中を走ったり、海岸で潮を浴びているとき、その時間は至福を感じることができる。

 わたしは、自分が見ている風景を適当に切り替えることを、自分の生活の中にビルトインしているように思う。それは、毎日の町走りだったり、地方出張の際の街歩きだったりする。マラソン大会のレースで走りながら、風景を楽しむことだったりもする。

 季節の変化をカラダで感じることは、人の感性にとても良い刺激になる。四季の際がはっきりしている土地で暮らしている日本人は、世界で一番に幸福だ。

 

5 花や植物を育てる

 ここまで書いてしまうと、我田引水になってしまうが。自分のポジションが、お花の団体(JFMA)の創業者会長だからだ。

 昔から花を育てることは好きだった。子供のころは、へちまや朝顔の観察記録をつけていた。植物を育てると、かならず土と水に触れる。これに光(日光)を入れると、植物が育つ3大要素になる。人間の精神を健全に維持するためには、植物の成長を見ながら生きる暮らしが大切だ。それは、子供を育てることと似ている。花が咲いたり、植物が実をつけるのをみると、その後に収穫を体験できる。

 

 以上、江原さんの講義からはじまったブログだったが、クリエイティブな仕事には、普段の生活の中でも創造的な生活が必要だと言いたかっただけである。長々と書いてしまった。