東急ハンズファンの気持ちはわからないでもないが、昨日のカインズによるハンズ買収劇について、ネット上の「ヤフコメ」を読んでいささか驚いた。ハンズは顧客離れが進んでいたところに、新型コロナが襲来。この間、東急ハンズは赤字経営が深刻になっていた。そこへカインズによる買収劇となった。
ホームセンターの「SPA企業」(カインズのこと)が「IT企業宣言」をして、DX(デジタル・トランスフォーメーション)に成功しつつある。そのカインズにとっては、東急ハンズの買収は経営上のメリットが大きい。簡単に3つのメリットを思い付くことができる。
1 <不動産物件> 欲しくてたまらなかった都心部の好立地を、コロナのおかげで手に入れることができた。
2 <商品開発力> 商品開発の内製化を進めてきたが、専門性のあるホビー系の人材が濡れ手に粟で入手できる。
3 <棚の相互補完> カインズのPB商品をハンズに、ハンズの売れ筋をカインズの棚に。相互補完性がある。
買収金額は公表されていないが、おそらくは3桁の低い方だろう。無責任に予測しているわけではなく、買収側のカインズの緊急度より、被買収側のハンズの方が経営の深刻度が大きいからだ。このごろ、ホームセンター業界ではこのタイプの買収劇が多い気がする。
ニトリのよる島忠の買収、アークランドサカモト(ムサシ)によるビバホームのM&A。買収側に有利なディールが行われている。一連の買収劇は、住生活産業内の業界再編につながるだけではない。業界横断的に流通の構造を変えるような、根本的な動きがその背後には見える。
それにしても、ヤフーのコメントが典型的だった。仕方がないと言えば、それはその通りなのだ。カインズは上場企業ではないので、経営の裏側はあまり知られていない。しかも、カインズの店舗は都心部や駅ビルにはなく、ほぼ郊外部に立地している。
ヤフコメを書き込みそうな、都内の住人とくに若い人には、イメージが20年前のディスカウント時代のホームセンターのままのようだ。売り場と商品を手に取ってみれば、その変化がわかるというものだが。IT企業宣言をして以降は、カインズは見違えるように売り場とサービスが変わりつつある。
他方で、都市型の住関連小売業は、DXも商品開発力も時代に取り残されそうになっている。20世紀を懐古する趣味が悪いとは言わないが、小売業のイノベーションと企業としての生産性という点ではいかがなものだろう?根本的な経営のメインテナンスを怠っていたから、会社としての鮮度も効率も落ちているように見える。
今後は出てくるだろう専門家たちのコメントに期待したい。わたしからして、「カインズ(ベイシア・グループ)がM&Aを企てるとは!」が最初の反応だった。その果敢さに脱帽である。意表をついた結果は、「吉」と出るだろうこと間違いない。