2019年カリフォルニア便り#3:南サンフランシスコのセコイアSAKE醸造所へ

 ベイエリアの3日目は、野口さんに案内していただき、飲食店の新業態を駆け足で歩くことになった。朝8時半にバークレイの駅からサンフランシスコのフェリー埠頭まで、久しぶりにBARTに乗った。約束した8時には起きられず、待ち合わせ時間に10分ほど遅刻してしまった。

 

 今日の一番の目的は、セコイアSAKEを経営している元院生の亀井さんと会うことだった。
 電車をサンフランシスコ埠頭で降りて、湾を臨むピアの中のレストランで朝ごはんをいただく。ゆったりとした食事の後は、ウーバーで南サンフランシスコに移動。1時間ほど亀井さんの酒蔵を見学した。起業から5年間の経験を聞いた。ご夫妻の酒蔵は整理整頓が行き届いていた。
 2014年に酒蔵を開いて、いまはサンフランシスコ市内の約30軒のレストランに日本酒を納めている。小売はしていない。米国で日本酒の中間マージンは40パーセント。日本から輸入する酒は、FOBの3倍になるそうで、それならばとSan Francisco市内で日本酒をローカルで作ろうとして始めた製造直売ビジネスである。
 酒作りに使っているのは、カリフォルニア米のカルローズの食用米。サンフランシスコで月桂冠が40年ほど前から酒造りをしていたが、ただし、地元のスーパー、バークレイボールなどで売られていた日本酒はら恐ろしくまずかった。

 セコイア醸造所は、杜氏が米国人の旦那さん。娘さんや研修生の力を借りて、年6回ほど樽仕込みをしている。加州の農業試験場の許可を得て、昨年からは茨城県の酒米、渡舟を地元の農家に作ってもらい醸造を始めている。
 日本とは違って、米国ではクラフトビールの流行もあって、アルコール醸造には個人でも許可がすぐに降りる。しかも、税金がほとんどかからない。日本は真逆である。酒税が高い上に、醸造免許が降りるまで時間がかかり、免許を得るまでに疲弊してしまう。販路を開拓するのでかなり苦労している。
 亀井さんの状況は、シェアードブルワリーの小林くんに聞かせてやりたいくらいだ。がっかりするくらいに、事業の開始は楽チンらしかった。ただし、工場のリース料が高く、水道や設備関係の追加工事費が予想以上にかかってしまう。自己資金で賄ったからいいようなものの、投資額は思いの外に高くついたという。
 最終的には、現在の売上高ほどの投資金額が必要になったらしい。コンビニを一店開業するのと同じくらいの資金量だ。投資資金を回収するまでにはかなり時間がかかりそうだ。

 それでも3年目までに販路開拓に成功。いまは、自分たちの給料が払えるまでになった。セコイアブランドの酒は、原酒、生酒、にごり酒の三種類。利き酒をさせてもらったが、三年前に飲ませてもらった時より、かなり美味しくできている。このほかに、バーボン、赤白ワインの樽に日本酒を詰めた製品がある。
 全米展開は今の所は考えておらず、サンフランシスコだけで商売を続けていきたいと言っていた。ちょっともったいない気もするが、亀井さんと旦那さんの年齢を考えると、あまり無理はできないのかもしれない。
 技術指導は、五月に北海道の大雪酒造で研修を受けていた。幸いなことに、日本酒の国際品評会で、今年は亀井さんのお酒が、セコイアブランドでゴールドメダルを獲得している。品質には定評があることが知られるようになった。

 今の所、コスト面で採算が取れないので、ワンカップやアルミ缶パックのリクエストもくるが、瓶詰めだけにしている。全生産量のうち、ハーフボトル380mlが90パーセント。そのほかは、760mlとバーボン、ワイン樽に仕込んだものである。
 ちなみに、ハーフサイズのボトルは、販売価格が25ドル。日本円で三千円!プレミアム価格だが、ラーメンや寿司と一緒に冷やで飲むので、ふつうに売れているらしい。
 売り上げで大きいのは、毎週末に独立のシェフに醸造所を貸して、日本酒を飲ませるイベント。30席ほどテーブル席が工場の中にある。その場所を彼らに貸し出して、最低保証として500ドルをもらう。彼らはケータリングした料理を酒蔵のなかで振る舞う。ある種のシェアキッチンの形式である。

 この日の訪問記録は、午後のタウンウォークに続く。何件もサラダショップなどを巡るのだが、長くなりそうなので、それは後ほど。