前編では、伏流水を利用した温室わさびの栽培方法と生産効率の高さを説明した。後編では、事業の拡張可能性について述べる。糸魚川でのわさび栽培は、地形的な制約から規模拡張がむずかしい。そこで、わたしから渋谷社長に、「農業FCシステムを採用して、本わさびの世界的な事業展開に挑戦してみてはどうか」と提案してみた。
<前例:粉わさびの輸出>
SKフロンティアには、輸出向けにわさびの加工品を開発した事例があった。収穫した根茎をフリーズドライで粉にする方法である。商品名は、「ひすいわさび」。缶入りの粉わさびである。
少量ながら、パウダー状のわさびをフランスなど欧州に向けて輸出している。フランス料理で肉やパテにかけると、独特の香りと辛みが肉料理などでアクセントになる。この商品は、フランスの星付きシェフたちに重宝されているらしい。
粉わさびの製作過程を説明していただきながら、渋谷社長から、わさびの粉を水に溶いて本わさびが「蘇生」する様子を見せていただいた。フリーズドライの粉わさびを水で溶くと、5~10分後に「練りわさび」ができる。しかし、通常の西洋わさび(ラディシュ)を使った市販の粉わさびにはない、本物の辛みと香りが再現できていた。
この形状で、加工品の粉わさびを欧米向けに輸出することができる。渋谷方式は、本わさび(根茎)の生産性がほぼ2倍である。根茎をそのままの形状で輸出しても、現地生産の本わさびに比べても価格競争力は十分にある。北陸地方の地形とミネラル分豊富な水脈がその根拠である。海外には、この条件をもった場所は多くはないだろう。スイスや北欧の特殊な場所に限定されるだろう。
<農業フランチャイズの仕組み>
日本国内でのわさび生産の可能性に話を戻す。渋谷さんが開発した栽培方法ならば、隣県(富山県)の地形と水脈を活かして本わさびを栽培することができる。糸魚川市では有効活用できる土地に限界がある。しかし、富山県ならば栽培適地(農地の温室への転換)はたくさんある。わさび栽培事業の拡張可能性はある。
富山県の若い生産者たちと事業提携をするSKフロンティアは、農業フランチャイズの本部の役割を担うことになる。SKは、たとえば魚津市や黒部市などに農地をリースして、わさびの栽培技術を供与する。SKフロンティアの本体は、土木建設業の渋谷建設である。温室群を建設することは容易だろう。地元の施工業者と事業提携をしてもよい。
現状でSKフロンティアが購入している苗は、ミヨシ種苗が提供しているメリクロン苗(真妻)である。ミヨシ種苗の三好正一社長はわたしの友人で、JFMAの副会長でもある。SKフロンティアの本わさびの品質には、(メールで)太鼓判を押してくれている。本わさびの海外展開のためのパーツはすべて揃っている。
あとは、地方行政(富山県や各市町村)とどのようにタッグが組めるかである。この問題が解決できれば、北陸2県(新潟県と富山県)で、本わさびの産地形成ができる。渋谷さんがチャレンジした栽培方法の発明が、新しい産地ブランドの形成につながるかもしれない。
<結語>
この先は、ベンチャー精神が北陸地域に広がるかどうかにかかっている。筆者としても、この事業を支援してみたいと思っている。渋谷社長と富山を引き合わせることが次のステップになる。さらに有利な条件が、このビジネスにあることも分かっている。