購入してから半年が過ぎてしまっていた。ゼミの学生たちに、夏休みの読書感想文に指定した本である。読んでいなかったので、感想文を採点する前に読んでいる。半分まできたところで、あることに気がついた。2019年秋に、著者の土屋哲雄さんから、ワークマン主催のファッションショー(第一回)に招待されたことについてである。
2019年秋のある日、わたしの隣で、アンバサダーたちが、水しぶきが飛んでくる舞台の真ん前に座っていた。ワークマンの製品開発とプロモーションに協力してくれている「優良顧客協力者」(マーケティングでは、伝道師「エバンジェリスト」と呼ばれる)である。彼女たちは、自分たちのYouTubeチャネルやSNSのアカウントを持っていて、お気に入りのワークマン製品を宣伝してくれる。
わたしと哲雄さんとの出会いは、2013年のIFEX(国際フラワーEXPO)だった。三井物産からワークマンに転職してきた還暦直後のCIOが、わたしが提案した花業界のファッションショー(花屋と生産者のためのユニフォームのプロモーション)に協賛してくださったからだ。
あのとき、わたしが招待を受けたのは、その返礼だったのだ。当日まで、そのことに気が付かなかった。6年後に、ワークマン自身が「ワークマン・プラス」を出店して、ファッションショーを開催したのだった。そんなに最近のことだったとは思わなかった。しかし、それだけの時間(6年間)で、何の変哲もない作業服屋のFCチェーンが、いまや時代の寵児に変身を遂げている。
本書では、小さな市場の手堅いプレイヤーが、第2・第3のブルーオーシャン市場(作業服→高機能性アウトドア衣料市場)を開拓するための考え方が紹介されている。他業界でもありそうな話だが、同じようなストーリーを見つけるのは簡単ではないだろう。ある意味、そこは「ベイシアグループ」の中でも、特異な事業分野だからだろう。
土屋哲雄氏の物産での商社マン経験とコンサルタントの知識があったればこそだろう。従兄弟の土屋裕雅会長(カインズ)の保有するワークマン株の時価総額は、哲雄さんの踏ん張りのおかげで約10倍に増えている。わが若き友人は、ここ3~4年の出来事にほくほく顔だろう。
全体のロジックはそこそこ理屈っぽいのだが、語り口が明快でシンプルなので読みやすい。うちの学生たちにも内容は簡単に理解できるだろう。めずらしく世間の評判だけで、まだ中身を読んでもいない本を今回は選書したのだった。哲雄さんを信用してのことだったが、チョイスは間違っていなかった。
これから、レポートの採点に入るが、実務経験がない学生たちがどこに反応するか楽しみだ。
<追記> 評価が★4であるのは、わたしの文章に対するテイストである。文体が乾きすぎているので、★5にしなかっただけである。哲雄さん、すいません。