ビル・ゲイツの離婚話: 離婚理由は「合法的な税金逃れ」なのか?

 1時間ほど前に、ビル・ゲイツの離婚が報道されていた(米時間では5月3日)。ご存知のように、ビル・ゲイツ氏はマイクロソフトで同僚だったメリンダ夫人と、27年前に結婚して3人の子供に恵まれている。ゲイツ夫妻は、世界最大の慈善団体(ビル&メリンダ・ゲイツ財団)の共同代表者でもある。ビル・ゲーツの個人資産は、約14兆円(1300億ドル)とも言われている。

 

 いまやアマゾン創業者のジェフ・ベゾスに抜かれて、世界第2位の富豪に転落しているが、それでもビル・ゲイツが大富豪であることに変わりはない。二人の大富豪夫妻がどちらも離婚しているのは米国らしいが、米国の資産保全と離婚事情を知る人たちからは、離婚に関する感情論とは別の議論が持ち上がっている。

 そのことに関して、あまり好きではないヤフーのコメント欄を、長い時間をかけてつい読んでしまった。読者の感想は、ふたつに分かれている。①熟年離婚について同情のコメントを寄せているグループと、②合法的な脱税のために夫妻は離婚という手段を選んだとするグループである。「ヤフコメ」は、勝手気ままで無責任な発言が多い中で、ビル・ゲイツの離婚話に関しては、けっこう的をえているコメントが多かった気がする。

  

 ②後者の離婚理由の解説については、金に関してはおっとり気味のわたしでも、「なるほど!」と感心したものである。離婚大国の米国では、離婚による財産分与は「無税」になるのだそうだ。スマートながら冷徹そうなゲイツ夫妻だから、グループ①の読者が解説しているように、70歳も過ぎてしまえば、形式的な離婚に感情的な壁は低くなるだろう。

 ヤフコメ(BY②のグループ)によると、夫婦は税制の網の目をくぐるため、ビルの死後の後始末(妻と子供たちへの財産分与:軽減策)を考えて離婚を選んだとの解釈だった。たしかに、相続税は累進課税がふつうだろうから、亡くなる前に離婚をしておけば、子供たちに残す分はかなり減税効果になる。合法的な脱税方法として、離婚という選択肢は十分に考えられる。

 米国でバイデン大統領が誕生したが、バイデン氏が直近で狙っているのは、大型の国内インフラ投資とそのための富裕層への増税である。また、ITサービス課税に共通の下限(12.5%)を設定しようとする動きも、新しい政権内にはある。一般市民と富裕層との経済的な分断回避も視野に入れてのことである。

 

 そのように考えると、ビル・ゲイツ夫妻の決断は、社会の動きに先手を打った行動と見えないこともない。米国で民主党が政権を維持する限り、富裕層は資産管理面では、やや不利な立場に追い込まれる可能性がある。

 日本でも、富の偏在は激しくなっている。国際的にも累進性が高い日本の所得税や相続税(資産譲渡税)から逃れるために、長期に渡り海外に居住したり、本社(実際はぺーカーカンパニー)を海外に移転する企業が後を絶たない。バイデン政権の税制度面での大転換は、自民党政権の屋台骨を揺るがしかねない。

 環境感度が高いゲーツ夫妻の離婚話は、したがって、世界の富裕層にとって、新たな行動指針になるのかもしれない。とても額面通りに、夫婦の感情問題とは割り切れない気がする。ある意味、富裕層の財産管理や富の不平等論に関する社会のリトマス試験紙なのかもしれない。