TKC発行の『月刊戦略経営者』からインタビューを受けた。日経新聞の広告欄でよく見かける中小企業経営者・税理士・会計士向けのビジネス誌である。担当者(小林さん)によると、これまで2度ほどインタビューに登場しているとのこと(補足参照)。今回は、「価格付けについて」のインタビュー依頼だった。
拙著『「値づけ」の思考法』(日本実業出版社、2019年)からの流れである。午前中のオンライン(シスコのWEBMAX)でのインタビューは、約一時間。内容は、以下の5つだった。花粉症で声の調子が思わしくなく、小林さんにはご迷惑をかけたかもしれない。
1 小売店における昨今の値付け事情と価格戦略の実態
2 ダイナミック・プライシングやサブスクリプションなど値付けのトレンド
3 価格表示が消費者に与える心理的影響
4 中小企業経営者が念頭に置くべき価格戦略
5 4/1に開始される総額表示義務化にともなう値付けの今後の動向など。
来月号(2021年4月号)の『戦略経営者』で、「値付けの最前線(仮)」の特集を組むらしく。巻頭のインタビュー(4頁組)として掲載されることになるらしく、いずれに本ブログにその内容をアップすることにする。
ところで、最後(5番目)の質問を受けた際に、わたしは、思いつきで大胆にもある予言をしてしまった。「数年以内に、日本から一円硬貨が消えてしまう」という予想である。引き金になるのが、4月から実施される「総額表示義務化」である。
一円硬貨の消滅と(消費税の)総額表示には、どのような因果関係があるのか? 私の推論は、以下のようなロジックになる。
①総額表示になると、本体価格と消費税の合算表示が義務付けられる。価格表示の紛らわしさはなくなるが、スーパーやドラッグストアなどでは、端数価格(198円、298円)が機能しなくなる可能性が出てくる。これまで、「税別表示」の場合は、98円の商品に10円が上乗せされて、消費者がレジで支払う額は108円だった。
②企業側にとって、総額表示(108円)になると、端数価格(98円)は意味をなさなくなる。小売業者が消費税分(10円)を値引きするはずはないから、実質的には値上げになるだろう。こんな環境だからメーカーにも余力はない。もっともありそうな値上げシナリオは、110円の値付けである。あるいは、せいぜい頑張って105円である。
③電子マネーの普及が、「1円単位の値付け」を後押ししそうだが、それは逆に「一円硬貨」の存在意味をなくしてしまうと考えられる。つまり一円硬貨(物理的な存在)は、電子マネーの普及で役割を終わることになりそうなのだ。
一円硬貨の消滅がいつ起こるか? 参考になるのは、カナダのペニー(1セント硬貨)の消滅事例である。2013年に、カナダは1セント硬貨を廃止している。米国とユーロ圏では、まだ1セント硬貨が残っているが、しばしば廃止の議論はなされてきている。
一円はアルミ硬貨(1g)である。アルミ地金1gとしての市場価値は、0.8円らしい。年によって発行枚数(年間50万枚前後?)は異なるが、複数のソースを調べたところ、1円の発行費用は3円らしい。一円硬貨はすでに発行する意味を失っている。これまでは利便性が優位だったので、造幣局としてもやめるわけにはいかなかったのだろう。
タイミングはいまである。小売業者が端数価格(98円)をやめることになれば、長年の懸案事項だった「一円硬貨発行の停止」が叶うことになる。電子マネーの普及で、一円単位の支払いはポイントなどでの還元の可能性が出てきている。物理的な貨幣としての一円硬貨は、存在意味を失いつつある。
わたしの予想は、「一円硬貨は4年後の2025年に消滅する」である。もちろん経過措置などはあるだろうが、一円玉はかつての100円札や2000円札と同じ運命を辿るのではないだろうか。その行く先は、もしかして硬貨(5円、10円、50円、100円)の自然消滅かもしれない。読者はどのように考えれるだろうか?
<補足>
同誌には以前、2003.10月号「指名買いの研究」と2007.6月号「私の本棚」で登場しているとのこと。インタビューの依頼は、「日本政策金融公庫調査月報」の記事を見てのことだった。連鎖反応のひとつである。