メディアには、思い込みや意見の誘導という特性がある。コロナの感染が拡大してから、そうした報道が頻繁になっているように感じる。大衆迎合的な記事は、メディアにとって世間の注目を浴びるからである。たとえば、本日の「日経MJ」に掲載されている記事がその典型である。バイアスがかかった記事ではないかと疑ってしまう。
ローソンの一部店舗の正月休業が、『日経MJ』に大々的に取り上げられている。報じられている内容は、「日経本誌」(12月16日号)をコピーした記事である。したがって、書いた記者も同じ人にみえる。
オリジナルの12月16日の記事は、次のような論調になっている。
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「ローソン、一部で正月休業 年中無休見直し
21年は90店舗程度 人手不足・労働時間増に対応」
2020年12月16日
ローソンは年末年始の店舗休業に踏み切る。2021年にかけて約90店が元日などに営業をとめる。コンビニエンスストアによる特定期間の休業実施は初めて。人手不足で従業員の確保が難しくなるなか新型コロナウイルスで客数も減っており、「24時間営業・年中無休」の原則を見直す。多店舗出店と長時間営業で成長してきたコンビニは転機を迎えている(後略)。
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これに続いて、リード文は、「ローソンはコンビニ大手3社で初めて加盟店の正月休業を認める」となっている。しかし、ローソンのオーナーからの情報では、この記事は寝耳に水だったらしい。それは当然のことで、「正月休業の制度化」は事実とはちがってているからのようだ。わたしが知る限りでは、ローソンが加盟店に正月休業を禁じたという事実は存在していない。
結局は、ヤオコーやサミットなど、コロナで収益が大幅に上昇した首都圏の食品スーパーが、従業員に利益還元する意味で、正月の休業に踏み切ったことが報道の前提になっている。この際、食品スーパーであれば、正月を休業して従業員に報いるというのはよく理解できる。コロナで日販が上がったから、昔に戻って三が日を休業にするだけのことである。消費者も、コロナで買いだめには慣れっこになっている。
しかし、コンビニではファミマもセブンも休業しない。それは、スーパーとコンビニでは、消費者ニーズが異なっているからである。都心部の店舗やビルインの店では昔から正月を休んでいた。それはローソンだけではなく、一般のコンビニでも同じだったはずで、需給バランスが変わった今年の正月でも、根本的に事情は変わらないはずである。
たとえば、日経本誌の以下の記事は、明らかに間違いである。前半は正しいが、後半はミスリーディングの記事内容である。
「年末年始は売り上げが年間の中でも低い。従業員の確保も難しく、オーナー自らがシフトに入ることも少なくなかった。ローソンは19年に経済産業省の検討会で加盟店の労働環境の悪化を指摘されたことなども踏まえ対応を検討。営業時間に加え、休業のあり方も見直すことにした」
そもそもコロナ禍の現状では、パートの確保が以前ほど困難ではなくなっている。加盟店オーナーは、環境変化を見て営業時間やサービスを考えるものだ。本部もコンビニの社会的な役割を考えて、休業や営業時間を決めることになる。コンビニにとっては、いまこそ業態としての利便性(社会的な存在意義)が問われている。本部も加盟店も、いまが正念場だと思う。
そして、経営不振の店舗が増えている中で、日販が落ちる正月といえど売上はほしい。民間企業の経営に対して、世論に迎合して、「正月休業の制度化」を望む方が感覚的にずれているとしか思えない。
なお、日経MJの一面記事(12月23日号)には、正月を休日にする業態がリストアップされている。
上から順番に、コンビニ(大手三社、休業せず*ローソンの正月休業は報道まちがい)、スーパー(ほぼ休業)、専門店(上新電機のみ)、外食(すかいらーく、ロイヤルホスト)、テーマパーク(TDR、USJ)、鉄道(JR東と西)、百貨店・専門店の初売り(福袋の販売自粛、2日~)。
いずれにしても、小売りやサービス業の業態によって、消費者から求められるニーズは異なる。店を開けるかどうかは、経営者の判断に任されるべきである。正月を休んでもお腹が傷まない官僚やメディアが、勝手に休業要請をする権利はないだろう。