4月1日は、コンビニのパラダイムチェンジの日: 「コンビニの未来、値引きは正義」(『日経MJ』4月1日号、一面掲載)

 標記の記事が日経MJの一面に掲載されている。詳しくは、MJの記事をごらんいだだくとして、コンビニの常識だった値引き販売がタブーではなくなる日がやってきた。ローソンの余田オーナー(都内34店舗経営)が、去年8月からはじめたフードロス削減のための値引き販売の実績がMJの誌面で紹介されている。

 

 記事を要約すると、値引き開始から約半年で、既存店の売上が対前年比で5%伸びている。同時に、お弁当やパン、デザート類の廃棄ロスが10%減少している。廃棄ロス10%は、さらに削減可能な水準である。値引き販売にあたって大切なことを、以下に列挙してみる。MJの誌面では、かならずしも、明確に書かれていなかったことも含まれている。

   

1 「値引き販売」をコンビニの例外的な仕事と考えないこと。

 コンビニで絶対的に優先すべきテーマが、チャンスロス(売り逃し)を出さないから、なるべくフードロスを減らすことに変わった。したがって、フードロス削減は、いまや”社会的な正義”である。一番大切なことは、社員をはじめとしてクルー全体で「フードロスをゼロにする」という理念を共有すること。

   

2 フードロス削減は単独の独立した仕事ではない。

 廃棄を減らすために”頭を使え!”ということ。フードロス削減は、単純に見切り販売をすることではない。廃棄を減らすためのスタートは、①精度の高い発注をすること。②それでも廃棄が増えそうになった場合は、陳列の工夫や声掛けでできるだけロスを減らす努力をすること。その場合、③値引き額の決定は、天候やその日の客の入りを見て機動的かつ柔軟に対応すること。

  

3 ひとりのクルーが発注と陳列と見切りを担当すること。

 ロスの削減には、カテゴリ―ごとに責任者を決める。クルー全体でロス削減の努力はするが、特定のカテゴリーについて、ひとりが発注作業から陳列、値引き(金額とタイミング)まで責任をもってあたること。フードロス対策は、ある種の思考実験(ゲーム状況)だからである。

  

 <値引き実験の帰結>  

4 クルーのモチベーションアップ

 値引き販売のテスト店頭を観察したところでは、店内の清掃(C)や接客・声掛け(S)が以前より積極的に行われるようになっていた。おそらく、QSCがしっかりした店舗のほうが、フードロス管理の成果が出やすいのだろう。なにより、成果が出ている店舗では、クルーが仕事により熱心に打ち込んでいるように見えたことが印象的だった。

  

5 チャンスロス(売り逃し)を恐れない経営

 一般的には、つぎのようなロジックがコンビニの常識と考えられてきた(鈴木敏文氏の呪縛)。

 コンビニは消費者に利便性を提供するビジネスだ。だから、必要なときに店頭に商品が置いてない状態は悪である。欠品は瞬間の売り逃しにつながるだけでなく、再来店の頻度を下げて競合に客を奪われる原因になる。そのため(チャンスロス=ゼロ)、最終的に捨てることになっても、商品は山積みして棚を絶対に空にしてはいけない。

  

6 パラダイムチェンジ(オーナー利益の増加は、フードロスの負担減を原資とすること)

 このロジックは、今日のような環境配慮社会では、もはや人々からの支持を得られないだろう。ビジネスの優先目標は、チャンスロス=ゼロではなく、できるだけのフードロス削減である。そのための努力に、コンビニ経営は舵を切るべきである。

 その結果(フードロス削減)として、オーナーの負担分が減るのであれば、店主の手取り(荒利益配分額)は増えることになる。実際に、ローソンの余田オーナーの店では売り上げも増えている。やみくもに商品を山積みする(=チャンスロスゼロ)のではなく、発注を適正化してバックルーム在庫をコントロールすることで、加盟店の収入を劇的に増やすことができる。

 

 以上、コンビニの経営は、大きなパラダイムチェンジを経験することになる。フードロス削減は、いまや社会的な正義になったからだ。