2019年カリフォルニア便り#5:八木保さんのロングインタビュー

 ロサンゼルス在住のアートディレクター、八木保さんの仕事場を訪問。まったりした2時間半のロングインタビューは、ロック・フィールドの岩田弘三会長とアリス・ウオータースが出会うことになる背景取材のため。八木さんの事務所で、岩田会長と蟻田さん(アンリシャルパンティエ創業者)と八木さんの交流を聴取することになった。八木さん個人の仕事の来歴も教えてもらう。

 

 インタビュー終了の後は、この地域のオーガニックスーパー、EREHWONの2店舗やデリカレストランなどを案内してもらう。夕食は、ハリウッドセレブがお忍びで来ていそうなイタリアンレストランで。メニューが読めないくらいに、店内は薄暗い。お互いの顔が見えない暗かった。
 EREHWONは、逆さまに読むと、「どこにもない場所」の意味で、nowhereとなる。100%オーガニックの商品を置いてあるスーパーマーケット。現在はロサンゼルスに4店舗。デリカテッセンの売り上げが半分くらい?ではないかと思われるくらい即食系の惣菜類が充実している。
 Amazonに買収されてしまった、もともと「なんちゃって」オーガニックスーパーのホールフーズとは異なり、野菜は100%有機。オーガニックの加工食品、例えば、ジュースなどは瓶詰めされている。「使用後にリサイクルできるようにするためで、素材の質感を表現するにはビンの方が優れている」(八木さん)。
 合理的なMDの考え方は、牛肉などを真空パックのポーションで売っているところに表れている。この方式を採用しているのは、持ち帰りの手間、衛生面と日持ちではないかと思われる。カット野菜も横置きの縦面陳列でディスプレイしている。シズル感が伝わってくるが、値段は超高い。およそ、慣行品の倍くらい?

 海岸寄りのサンタモニカが、ハリウッドセレブが住む保守的なエリアだとすると、ここベニス地域は、最新になってハイテックのスタートアップ、例えばGoogleのオフィスがシリコンバレーから移ってきている場所。若くて金持ちが住む場所に変わると、健康な食事を摂りたいニーズが生まれる。
 元々ハリウッドセレブが住んできた街に、ハイテクベンチャーに勤める豊かな若者たちが住むようになった。地価は高騰するが、オーガニックでロハスな生活をするため人間たちが集まる街に変わる。
 レストランもスーパーも雑貨店も、トレンディでハイレベルになる。おもしろいのは、日本からの食材が普通に売られていたり、やや高級なレストランで食べられるようになること。地鶏、椎茸、抹茶、豆腐、納豆(もちろんローマ字表記)などの言葉が、食材としては普通に使われている。
 日本の食文化の影響が半端ではない。値段は高いなあ!とは思うが、喜んで食べている。今回の旅行の印象を一言で言えば、アメリカ人の舌がよくなった!昔のように、彼らの嗜好を馬鹿にできない。

 ところで、案内してくれた八木さんは、ESPRITのオーナーに請われて、1984年に東京からサンフランシスコに移住。8年前には、環境の変化を求めてロサンゼルスに再移住。笑ってしまうのだが、ロサンゼルスに住んでいる八木さんなのに、いまは日本の仕事が増えている。
 たとえば、清水寺のリブランディング、海の京都にある老舗旅館の再生、那須塩原のお菓子屋さんのためのスコッチウイスキー開発。福岡の出汁メーカー、茅乃舎さんの海外向けパッケージ商品のコンセプト作りなどなど。
 保さんご本人と、岩田さんや蟻田さん、安藤忠雄さんとの交流は、帰国後の時間があるときに紹介することにする。インタビューとレストラン店舗視察の内容は濃厚すぎた。インタビュー時に登場した人物とその時の状況が刺激的。

 思うのだが、結局は、人間関係が新しい世の中のトレンドと食文化を作っていく。それが、歴史的な真実ではないのだろうか。今回の短いツアーでも、それが確信できた。文化やビジネスの創造とは、そのようなものなのではないだろうか?