【コンビニ加盟店オーナーの皆さんへ】 5%のポイント還元で、店主の手取り収入が驚くほど増えます!

 セブン-イレブンとローソンが、フードロスを削減するため、5%のポイント還元をすると発表しました(『日本経済新聞』5月16日号)。ところが、わたしが知る限りでは、加盟店オーナーさんのほとんどから、「5%程度で、しかもポイントで還元なんて、事態の改善にはまったく役に立たない」という悲観的な意見が聞こえてきます。

 

 ところが、わたしがシミュレーションしてみたところ、コンビニ加盟店オーナーの収入は、現状と比べて400~500万円程度増えることがわかりました。前提条件がいくつかあるのですが、コンビニ上位3社(ファミマも含む)がこの先、フードロスを削減するため、5%のポイント還元に取り組むよう本部の動きを後押ししてください。

 「24時間営業に異を唱えたセブンの加盟店オーナーの銅像を建ててあげたい!」とローソンのあるオーナーが話していました。今回のポイント還元施策は、24時間営業の見直しに続いて、オーナー店主さんたちの労働条件と経済面を大きく改善することになります。うかつにもわたしは、最近までそのことに気が付きませんでした。しかし、コンビ二の経営をシミュレーションをしてみて、ある確信を得ることになりました。

 この先、本部が値引きを許容する方向に転換したことで、コンビニのビジネスモデルが根本から変わります。値引きができるようになると、フードロスが大幅に削減できる(現状の3分の1に減少)だけではありません。加盟店オーナーが働く生活環境が改善して、経済的にもいまより豊かになります。その根拠を、論理的にデータを用いて示してみたいと思います。

 

 この後の論考は、7月中旬に刊行が予定されている拙著『値付けの思考法』(日本実業出版)の「はじめに」のドラフトです。論旨は、すでに発表済みの個人ブログ(5月16日)に加筆して、「コンビニオーナーの手取りがどれくらい増えるのか?」を推論したものです。すでに述べたように、オーナーの収入が、少なく見積もっても、年間400万円ほど増加するという結論になります。

 この数値は楽観的すぎるように見えるかもしれません。しかし、いずれは必ず実現する未来を推論しています。「これまでコンビニ本部は、なぜ値引きを許容してこなかったのか?」。そのことが不思議なくらいです。もちろんお店の立地や競合条件、店舗のタイプによって売り上げや利益は異なります。しかし、標準的なコンビニであれば、店主の平均年収は、現状より少なくとも+300万円、多くなる店では+600万円の増加が見込めます。

 コンビ二は、いまや社会的なインフラになりました。そこまで発展を遂げたことで、今後は社会的な要請に応えるべき段階に達しているともいえます。いまコンビニの本部が解決すべき課題は、①フードロスを削減することと、②コンビニで働く人たちの生活を守ることです。

 コンビニが従前に比べて、賞味期限の短い生鮮品や加工食品を多く扱うようになったことが、問題の背景にはあります。また、食品の廃棄ロスを生み出すひとつの原因ともなっている、③24時間営業の見直しが、コンビニにとっては喫緊の課題です。

   

 24時間営業問題に続いて、コンビニの加盟店主にとっては偶然にも幸運が重なりました。経済産業省からの行政指導などもあって、食品ロスを削減するため、本部は「5%ポイント還元による実質値引き」を発表しました。このはじめの第一歩が、コンビニのビジネスモデルを大きく変えることになるはずです。

 ①と②を中心に、以下では述べていきます。こまかい数値がたくさん出てきます。大学の講義のようで、ちょっと眠くなる場面もあるかもしれません。しかし、わたしの推論は、昼夜を問わずまじめに働いてきた店主の皆さんにとって、まちがいなく福音になるはずです。

 部分的に読み飛ばしてかまいません。ただし、最後の結論だけは、必ずお読みください。

 

 *注釈:2日前にアップしたドラフト(元原稿)は、以下のように差し代えてました。細かな計算違いを修正したのと、文章をもっと読みやすくしたためです。

  

 

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 小川孔輔(2019)『値付けの思考法』日本実業出版社から

(*2019年7月中旬、全国の書店およびネットで発売予定)
  
 はじめに(V2:200190528)
  
■コンビニ大手2社は弁当の値引き率をなぜ5%にしたのか?
 「コンビニ、売れ残り実質値引き セブンなど食品ロス削減」という記事が2019年5月16日付の日本経済新聞に掲載されています。内容は、ローソンとセブン-イレブンが、賞味期限の近づいた弁当やおにぎりなどの日配食品が廃棄されるのを防ぐため、その弁当類を購入するお客に対してポイント還元を行なう店頭実験を開始するというものです。
 セブン-イレブンは、「販売期限まで4~5時間に迫った弁当やおにぎり、麺類などの日配食品が対象」で「電子マネーを使って、ポイント還元率を5%程度」にすることを、ローソンは、日配食品の売れ残りについて「5%のポイント還元の実験を愛媛県と沖縄県で始める」こと、「合計約450店で、16時以降に目印の付いた商品を買うと100円につき5ポイント還元する」こと、さらに「対象商品売上総額(税抜)の5%を貧困な子どもの食事を支援する取り組みに寄付する」ことをリリース記事でそれぞれ発表しています。
 しかし、記事中では説明されていない疑問点が3つあります。それは次のとおりです。 
(1)弁当類の食品廃棄ロス(フードロス)を減らすため、なぜ直接的な「値引き」ではなく、間接的な「ポイント還元」という形をとるのか?
(2)ポイントの還元率はなぜ「5%」なのか?
(3)5%のポイント還元は、どの程度のフードロス削減に貢献できるか?
   そして、本部と加盟店オーナーの取り分(収入、利益)は増えるのかどうか?
 以下、この(1)~(3)について簡単に分析してみたいと思います。
  
■なぜ「ポイント還元」なのか?
 値引きには、4つのやり方があります(本書Chapter5の5-4〔265ページ〕および拙著『マーケティング入門』〔日本経済新聞出版社〕参照)。
 コンビニ大手2社はともに、フードロスの削減対策として4つの販促案(268ページ参照)から「延期・値引き型」(ポイント付与)を選んだわけです。つまり、ポイント還元で既存客の再来店する動機を高めることが狙いです。
 しかも、電子マネーを利用することで、店舗オペレーションには負荷がかからないようにしました。ポイント還元による食品廃棄ロスの解消は、消費者、コンビニ本部、加盟店オーナー、地球環境のいずれにもメリットがある上手な値引きの方法なのです。
    
■還元率はなぜ「5%」なのか?
  
 5%のポイント還元を決めたコンビニ2社は、次のようにシミュレーションを行なったのでないかと思われます。経済学の公理の1つに、「価格弾力性は、粗利の逆数になる」という定理(ドーフマン・シュタイナーの公式)があります。日配食品の粗利率は約33%といわれているので、その価格弾力性はその逆数で約3(=1÷0・33)となり、5%の値引きで日配食品の売上個数は15%(=値引き率の3倍程度)伸びると推定できます。
 セブン-イレブンでは、過去のデータによれば、ポイント還元のシールが日配食品に貼られた時点(販売期限まで4~5時間に迫った時点)で、入荷量の70~80%が売れています。この時点で陳列棚には賞味期限まで長い新しい商品が補充され、その新しい商品と売れ残っている古い商品が並売されますが、お客のほとんどはポイント還元が付与された古い商品のほうを選ぶはずです。よって、5%の値引きで販売量は15%ほど伸びるのです。
 また、ローソンは前述したように、5%のポイント還元に加えて、対象商品の売上総額の5%を子どもの食事を支援する取り組みなどへの寄付も実施する予定です。
 この場合、売上個数増の効果は先ほどのセブン-イレブンの15%より大きくなります。なぜなら、5%の「社会貢献」(寄付)というお客のメリットが加わり、そうした社会貢献を望むようなお客に対して、企業のイメーアップにつながり、購買を促進させるためです。なお、この寄付による価格弾力性を1と考えると、売上個数は20%(=ポイント還元による売上個数増15%+寄付による売上個数増5%)増えると推定できます。
 
■フードロス削減効果はどれくらいか?
 先ほどの分析によれば、セブン-イレブンの場合は、7人に1人程度(15%)が値引きされた商品を選ぶと想定できます。実際に、スーパーでは値引きシールが貼られた生鮮品はほぼ完売します。したがって、少し控えめに見積もっても、食品廃棄率(現状では売上の2~3%程度)は0・5~1%に、特に弁当やおにぎりなどの日配食品の廃棄率は売上の3~5%程度(現状では売上の10%程度)に減少すると思われます。
 コンビニ本部にとっては、日配食品の売上が現状より増えることになります。ポイント還元の負担(セブン-イレブンは‐5%、ローソンは‐10%)はありますが、売上も増えるので(セブン-イレブンは+15%、ローソンは+20%)、本部が受け取る粗利の絶対額も増えます(両社とも+10%)。
 一方で、コンビニ加盟店のオーナーが従来、1日に2万円程度負担していた廃棄ロスはかなり少なくなります。本部の取り分(チェージ率)が変わらないとすると、加盟店の最終利益は大幅に増えることになります。
    
■コンビニ加盟店の取り分はどれくらい増えるのか?
 では、5%の値引き(ポイント還元)で、コンビニ加盟店の利益はどの程度増えるのでしょうか?
本書の発売後(2019年9月ごろ)にローソンの店舗実験が終わり、ポイント還元に対する実際の消費者の反応が判明します。したがって、現状では消費者の反応を断定することはできませんが、いくつかの前提条件を設定すれば理論的に推測はできますので、ここで簡単なシミュレーションをしてみたいと思います。あくまでも仮説に基づく推測になるので、大きく外れる可能性があることをご容赦ください。
 ローソンとセブン-イレブンの加盟店の平均日販は、60万円(セブン-イレブンとローソンの中間値)です。粗利率を33%とすると、粗利額は約20万円になります。コンビニの会計制度では、本部と加盟店が契約に従って粗利益を配分することになっています。平均的なケースでは、本部の取り分(チェージ率)が60%、加盟店の取り分は40%です。
 以上の前提条件では、加盟店には8万円(=20万円×40%)の粗利益が手元に残ります。そこから、アルバイトの人件費や店舗運営コストを差し引きます。社会的な問題になったのは、食品廃棄ロスのほとんどを加盟店が負担するという契約内容でした(セブン-イレブンは85%、他社は90%)。これに対して、値引きを許容すると、廃棄ロスは現状の3分の1程度に下がります。廃棄ロスが3分の1になると、これまで1日に2万円ほど負担してきた廃棄コストも3分の1に減り、加盟店の取り分(利益)は毎日約1・13万円(=2万円×2÷3×85%)増えます。仮に、廃棄ロスが半分しか減らない場合でも、加盟店の取り分は1日で8500円(=2万円÷2×85%)増えます。
 これに、売上の増加効果が加わります。やや少なめに見積もって、弁当類の売上が10%増えるとします。弁当やおにぎりなどの日配食品の構成比は売上全体の3分の1程度とすると、ポイント還元効果で日配食品の1日の売上は2万円(=60万円÷3×10%)増えます。そして、粗利率を33%とすると、加盟店のオーナーが受け取れる粗利額は2666円(=2万円×33%×40%)増えます。それに先ほどの廃棄ロス削減分の1・13万円を加えると、合計で粗利額は1日平均1・4万円程度増える計算になります。仮に、廃棄ロスが半分しか減らないとしても、加盟店のオーナーの取り分は1・12万円増えます。
 これを年間に換算すると、コンビニ加盟店のオーナーの年収は409万円~511万円(=1・12万円×365日~1・4万円×365日)増えるのです。コンビニ加盟店のオーナーの年収は、概ね600万円~800万円といわれていますので、平均年収が1000万円を超えることになります。
 
■5%ポイント還元の驚くべき効果
 つまり、食品廃棄ロス削減を目的とする5%のポイント還元という「上手な値引き」によって、賞味期限が間もなく到来する弁当などの日配食品の購入をお客に促し、彼らの財布の紐を緩ませて、加盟店のオーナーの純収入が50~85%も増加するのです。なお、ここでは、コンビニ本部にもたらされる利益の増加額の計算は割愛しますが、本部も最終利益が10%以上は増加するのです。
 従来はタブーだといわれていた日配食品の売れ残りの値引き(いままで値引きしなかった理由は本書のChapter1の1-4〔63ページ〕参照)にコンビニ大手2社が踏み込んだ、この事例によって、商品やサービスの価格を最適に設定して、それを効果的にお客に提示する価格戦略、つまり「値づけ」がいかに企業経営に大きな影響を及ぼすものか、ということを読者の皆さんも実感できたのではないでしょうか。
 ちなみに、宣伝広告やプロモーション活動など、値づけ以外の販促プロモーション(マーケティング手段)では、これほどドラスティックな収益増は期待できません。というのは、一般的な業界で、広告の売上弾力性は0・1以下であることが知られているからです。広告などの消費者向けの販促プロモーションの活動予算を5%増やしても、売上や粗利は最大で0・5%しか増えないのです。他の販促プロモーションと値づけ(ここでは値引き)の利益貢献度は、0・5%:15%です。わかりやすい割合にすると、1:30となります。
 この割合は、値づけによって得られる利益の増加効果は、その他のコミュニケーション手段で伸ばすことができる利益増加効果の30倍以上あることを意味します。つまり、利益の95%以上が、値づけの巧拙に左右されるといえます(値づけ:他の販促=96.8%〔30÷31〕:3.2%〔1÷31〕)。
 このように、儲けの源泉のほとんどは、お客が買いたくなるような「スマートな値づけ(価格戦略)」を思いつくことができるかどうかで決まるのです。
 本書では、こうした儲かるスマートな値づけを探り当てるために必要な教養と、その教養を活用していく思考法について、様々な業種の実例を取り上げながら、マーケティングや戦略の理論をもとにやさしく解明していきます。