『日本経済新聞』(11月4日)の朝刊で、生活用品メーカーの「アイリスオーヤマ」(本社:仙台市)が、テレビ販売事業に参入することが報じられている。会長の大山健太郎さんとは、20年ほど前に『メーカーベンダーのマーケティング戦略』(ダイヤモンド社)という本を執筆させていただいた。
プラスティックの製造加工メーカーから事業をスタートして、ホームセンター向けの生活用品のベンダーに専門特化していた時期である。東大阪から仙台(角田市)に拠点を移して、クリア収納用やホースリール、根腐れしないプランターなどの開発で急成長していた。成長の源泉は、生活者の立場から既存の製品を改良する開発力だった。
20世紀の後半から、海外進出を開始した。中国、オランダ、米国に複数の工場を建設。大連では日本向けの商品を製造するとともに、プラスティック成型品から脱して、スチール家具(スチール製の収納棚)や木製品(園芸用のラティスなど)も作るようになった。
日本でヒットした使い勝手の良い生活用品は、世界でも通用するという確信が大山さんにはあったように思う。身近に必要とされる商品への消費者ニーズは、グローバルな通用性がある。その見通しは正解だった。だから、家電製品への事業拡大は、当然の道筋だった。
その一方で、収益性が低下している事業分野からは、目立たないが静かに撤退している。たとえば、園芸用品や収納用品の一部は、いまや品揃えとしては、アイリスプラザのようなEC販売を除くと、事業規模としては小さくなっているらしい。その割り切り方は見事でもある。
わが家を見渡してみると、アイリスオーヤマの商品がフロアに溢れている。掃除機は、白井の旧宅も高砂の新居もアイリス製である。もちろんプランターや散水ホースなどの園芸用品は同社製品である。LEDもスチール棚もアイリス製。生活のこまごましてところで、わたしたちは健太郎さんにお世話になっている。
そのアイリスが、テレビ販売事業に参入する。日経の報道を見ると、液晶テレビの製造は中国企業に委託するらしい。ただし、商品企画は自社内でとなっている。大山さんらしい判断ではある。初年度3万台の目標だが、いずれ量販できるようになれば、自社工場で生産することも視野に入れてのことだろう。
10年前(2009年)に販売を始めたLED照明や掃除機などは、日本の大手メーカーから退職者を引き受けて始めた事業だった。今度の液晶テレビ販売事業も、日本人技術者の知恵を活用した事業に育てるつもりなのだろう。日本が失いかけている製造技術の一部を、再利用する役割をアイリスは引き受けていることになる。
日本の製造業の現場に、かろうじて残されているモノづくりの知恵。そのノウハウを保持して発展させる会社として、アイリスオーヤマに期待したいと思う。わたしのゼミ生で、もっとも優秀な学生たちの何人かは、アイリスオーヤマと国分とトラスコ中山に入社している。
実は、卸会社の国分もトラスコ中山も、事業の基本には製造業的な知恵が存在している。そのことはあまり知られていないかもしれない。日本国のために、ものつくりの技能を継承していくのが、三社の社会的な役割だと考えている。その最も先鋭的な位置に、アイリスオーヤマがいる。