『新潮45』の次は、「経営学者は嘘をつく」を予定していた。急遽だが、これが「衣食同罪、こんなに捨てていいの?」というテーマに変更することにした。フードロスや衣料品の廃棄問題が、基本的には、現代のマネジメントシステムが生んだ必然だという観点からの経営批判である。
本論(仮題)は、商品の廃棄問題に対する修正提案(制度設計、政策提案)を含んでいる。また、コンビニ市場で、具体的なデータを数学モデル(食品の廃棄モデル)に当てはめてみた。
この論考は、新春早々に刊行予定の新潮新書『経営学の大罪』の企画構想段階では、序章に組み込むことになっていた。
ところが、別途に企画していたNHK新書『ローソンがセブンを超える日』の取材で、井出留美さんの『賞味期限のウソ』(幻冬舎新書)に出会った。また、大学院生の岩佐くん(ストライプ・インターナショナル統括マネージャー)が、卒業プロジェクト研究で、「原価の内訳を公表しつつ、原価率の高い衣料品ブランドをネットで販売する」というテーマを取り上げることになった。
どちらのケース(食品、衣料品)も、「店頭で商品の露出を増やし、極力チャンスロスを減らす(売り損ないを避ける)」という「マネジメントの呪縛」(品ぞろえの豊富さの演出)の結果である。商品が廃棄される理由は、現代マーチャンダイジングの基本原理(実務的な信念)に由来している
どちらも証拠となるデータが集まり出している。理論的には、小林富雄(2015)『食品ロスの経済学』(農林統計出版)が「原価率が低いことが、過剰発注の原因になる」ことを分析してくれている(第3章「多店舗経営における品揃え戦略と食品ロス」。前提はシンプルだが、直観的にもわかりやすい説明だ。
「新潮45」の記事に話を戻すことにする。
わたしからの企画変更の提案は、昨日(8月23日)の編集会議を通ったようだ。井出さん(ヤフー!)と小島(健輔)さんの記事からは、廃棄データが明らかにされている。衣料品では、39億点の約半分。食料品(日配品)では、流通段階で20%~30%。コンビ二弁当では、4%~8%(本部との契約、チェーン店、運営方式によって異なる)が毎日廃棄に回される。
商品の廃棄が頻繁に起こっているのは、極論をすると、商品の「原価が安すぎること」が原因である。食物も衣料品も、そして人間も! いまや一般商品の原価率は、10%~30%程度。海外から安価な輸入品が入手できるようになってから、廃棄が増えたことからもそれでわかる。ファストファッションや安価な家電製品などの耐久財もそうだ。
なんでも捨ててしまうのは、「もったいない」と精神論で非難するのは簡単である。それには正当性もあるのだが、この現象は買い手と売り手が合理的に行動した結果でもある。だから、経済理論的に説明ができるはずである。
つまりは、輸入品の販売価格が単に安いだけでなく、そtもそも原価率が低いので廃棄が増えることが説明できる。この20年間で日本企業をとりまく経営環境はすっかり変わってしまった。そして、わたしたち消費者の行動も変わってしまった。
捨てても惜しくないから、コンビニでは弁当を大量に過剰発注してしまう。海外から輸入した衣料品の原価率も、およそ10%だ。だから、過剰に店頭在庫をもち、半値以下でディスカウトしてしまう。最後には売価を20%!で安売りしても、それでも売れないものは、リサイクルに回るか、海外に新古品として再輸出するか(小島健輔さんによると、全体の25%が東南アジアに)、焼却処分になってしまう(
「もったいない」という以前に、貴重な資源の環境からの収奪である。それは、人間の労働や資源の損失もつながる。これだけ人手不足といいながらも、貴重な労働投入でつくった食品や衣料品をわたしたちは平気な顔で捨てている。われわれの社会は、いったいどこでまちがえてしまったのか。
海外からの研修生がコンビニや弁当工場、マクドナルドや農場で働いている。研修という名目だが、後には何も残らない。これも人間を「使い捨てている」と感じる現象のひとつだ。あれもこれも、アジアからの労働供給の原価が安いからだ。
さて、過剰発注と商品ロス(廃棄)を減らすための、わたしからの提案はつぎの3つである。
(ここでは、コンビ二の日配品、弁当やデザート類を念頭においてください。)
1 フランス政府が実施しているように、「(フード)ロスに対して課税をする」。
*1最適在庫モデルにより、最適発注量が下がって、廃棄ロスが減ることが説明できる。
*2小林のモデル(2015)を使うと、コンビニで廃棄ロスの一部を本部が負担すると
(加盟店の廃棄ロスをセブンの本部は15%を負担)、逆に廃棄ロスは増える。
廃棄ロスの増加分を、廃棄ロス課税で減少できることが証明できる。
*3同じく、本部と加盟店が粗利配分方式を採用している場合、
加盟店の取り分を増やすと(本部のチャージ率を低くすると)、廃棄ロスは増える。
2 世の中のビジネスを、「原価率が高い商売」に変えていきましよう!
*商品の廃棄が増えて、ディスカウント路線に走っているのは、
調達のグローバリゼーションが進展したおかげ。
消費者は恩恵も受けたが、その反面で無駄な資源を使ってしまっている。
*結局は、粗利の大きな商売(低原価の商品)が氾濫してしまったのが原因。
このビジネスモデルを根底から変えてはどうだろうか?
3 コンビニの廃棄の仕組みについては、「値引き販売」を許容すべきである。
*近年、本部がチャージ率を引き下げたり(セブンイレブンが1%を加盟店に還元)、
加盟店が全額負担していた廃棄ロス分を本部が一部負担するようになった(15%)。
逆説的に!、結果として、これが廃棄ロスを増やす方向に作用する
(実際にもそのようになっている。理論的な考察については「モデル分析」を参照のこと)。
*加盟店の利益配分が増えるのだから(つまりは、利益管理責任が増すわけだから)、
本部としてオープンに、加盟店に「値引きの裁量権」を与えてはどうだろうか?
*井出さんの調査(2017年7月)では、
「値引き販売を実施することで廃棄ロスが大幅に削減できること」が
店舗実験とデータ(廃棄ロス量の店舗比較)で示されている
(
わたしからの提案と具体的な事例について、内容は「新潮45」にて。
以上の提案は、直観的にも理解できると思うが、
厳密な証明は、数学のモデルで証明できる(以下で、詳しく説明してある)。
コンビニの数値例については、暫定的な概数である。厳密なものではないことに注意のこと。
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<算数の苦手なひとは>
モデル均衡式の導出などはスキップしてください。
ただし、結論だけは、読んでみてください。
簡単にいうと、つぎのような均衡式で、フードロスの現象が説明ができる。
1 前提:加盟店側は、自社の粗利益を最大化するためには、
① 販売のチャンスロス = V × (K-C) × (1-P) と
② 商品の廃棄ロス = W × C × P
がバランスしたところで、最適な発注量(Q)を決める。
ただし、ここで、それぞれの記号の意味は、
K=商品の価格、C=限界コスト(原価)、K-C=値入前の粗利率、
P=P(Q)、発注量(Q)で、最後の商品が売れ残る確率
その逆で、(1-P) = 発注量がQのときに、商品が売り切れる確率
V = 加盟店の粗利取り分(セブンは約35%、ローソンは約45%)
W = 加盟店の廃棄ロス負担分(セブンは15%、ローソンは10%)
C/K = 原価率(当初値入時点で、66%とする)
その逆で、K/C=マークアップ率
*最終粗利率は、30%近くになるらしいので。
<解説>
① チャンスロスは、
最後の一個を追加発注したときに、加盟店が受け取れる(限界)粗利益。
したがって、以下の3つの項(③、④、⑤)を掛け合わせたものになる。
③加盟店の粗利分配率(V)、
④粗利益率(K-C)、
⑤販売の機会ロスが発生する確率(1-P)
② 商品の廃棄ロスは、
同じく加盟店が廃棄負担する分で、
以下の3つの項(⑥、⑦、⑧)を掛け合わせたものになる。
⑥加盟店の廃棄ロス負担率( W)
⑦原価率( C)
⑧売れ残りの確率( P)
2 最終的な均衡式:
*P(Q) がどのように決まっているのか? つまり、発注量(Q)で、
商品が売れ残る確率は、次のようになる(左辺は、Pの単調関数)。
P / (1 – P ) = ( V / W ) × [ ( K / C ) – 1 ]
基準化したときの廃棄確率は、
=(粗利分配率/廃棄ロス負担率)×(マークアップ率 – 1)
<定性分析>
商品が売れ残る確率P(Q) はどのような性質をもっているのか?
つまり、商品が売れ残る可能性(廃棄ロスの発生確率)は、
(1)加盟店の粗利配分が増えると、廃棄ロスは増加する。
(2)廃棄ロスの負担分が減少すると、廃棄ロスは増える。
(3)マークアップ率が高いと(原価率が低いと)、廃棄ロスは増える。
<数値例>
以下は、厳密な検証とその他の変数をコントロールする必要はあるが、
(4)実証データ(ローソン対セブン)と、このモデルは一致する。
(5)最後の一個が廃棄になる確率が20%程度のところが、売れ残りの分岐点。
SKU単位で売切る確率が約80%のところで、発注数量が決まっている?
(6)日販が高いセブンのほうが、ローソンよりも売り切る確率が高い。
たとえば、セブンイレブンでは、
P / (1-P) =(0.35 / 0.85)× (1.5 – 1) = 0.21
また、ローソンでは、
P / (1-P) = (0.45 / 0.90) × (1.5 -1) = 0.25
この数値が正しいとすると、品切れ(1-P)と廃棄(P)の発生確率は、
セブンの場合は、P = 0.17 1-P = 0.83
ローソンでは、 P = 0.20 1-P = 0.80
3 応用問題:アパレルの事例
<モデル均衡式>
衣料品チェーンは、基本的に「直営方式」をとっているので、
本部と加盟店の負担問題は起こらない。V=M=1である。
したがって、廃棄ロスのモデルは単純になる。すなわち、
( 1 – P ) / P = ( K / C ) – 1
驚くほど、式はシンプルになる。
P = 1- C / K 、つまり、これは、売れ残る確率(廃棄率)が
「粗利率」(=1-「原価率」)そのものである。
実際の商売はもっと複雑だろうが、粗利率の高い商売は廃棄率も高い。
<数値例>
・原価率が10%の場合(当初値入れ)、商品が売れ残る確率は90%。
・これを50%オフで値引きをすると、事後的な原価率は20%になる。
なので、売り切る確率は、そのまま20%になる。
これが「プロパー比率」(20%?)の実態なのだろうか?
・半分が売れるのは、当初価格の20%(五分の一)で売った場合。
これが、年間39億点の半分が売れ残る実際を説明する。