【学生感想文】岩崎達也著『日本テレビの「1秒戦略」』小学館新書

 読書感想文優秀者3名を掲載する。


日本テレビの「1秒戦略」を読んで 山下 祐一郎

 私は本著を読んで、まず初めにとても驚きました。それは、現在の日本テレビがこんなにも好調で、テレビ業界で存在感を放っていることに対してです。特に、本著に記載されている民放バラエティ番組の平均視聴率ランキングを見た時に、上位に挙がっているものが軒並み日テレの番組だったことは衝撃でした。
 私は普段テレビ番組を視聴する時に、他の作業をしながらの「ながら視聴」が多く、また放送局でチャンネルを決めることもしていないので、ランキングを見て、知らず知らずのうちに日テレの戦略にはまっていたのかなと思いました。
 しかし、そんな日テレにも停滞期があり、そこから様々な戦略を通して、復活を果たしました。本著では、その要因を説明していますが、私はその中でも、二つのポイントがあったように感じました。それは、視聴者本位のマーケティングと氏家氏というリーダーの登場です。そこで、その二つについて考えていきたいと思います。

 一つ目は、視聴者本位のマーケティングについてです。私が普段テレビ番組を見ていて、番組で出演者が内輪で盛り上げっていて、あまり面白いと感じないことがあります。特に「とんねるずのみなさんのおかげでした」や「めちゃ×2イケてるッ!」などフジテレビの番組に対して感じることが多くあり、本著に書かれていた「自分が面白いと思う番組をつくる」フジテレビと、「視聴者が面白いと思う番組をつくる」日本テレビという比較がとても当てはまると思いました。

 さらに、日テレは番組づくりの考え方だけでなく、構成についても手を加えることで視聴率を上げました。日テレはフォーマット改革プロジェクトを行う際に、当時の視聴率トップであったフジテレビを徹底的に分析し、その上で戦略を練ることにした。そして、視聴者にエンドの予感を与えない「タイ焼きのシッポ理論」や番組終了時の視聴率が次の番組の視聴率にも大きな影響を与えるという「紙ヒコーキ理論」、番組を00分ではなく数分間前倒ししてスタートする「またぎ編成」などの戦略を打ち出しました。この中でも振り返ると、私は少しせっかちなのか、番組が終わったり、終り頃になるとチャンネルを変えたりして、他の番組を探すので「またぎ編成」の戦略にはまってしまっていると感じました。また、番組の流れとして日曜日の「ザ!鉄腕!DASH!!」から「世界の果てまでイッテQ!」などは、視聴者層が近いと感じるし、私自身もそのままの流れで違和感なく視聴することが多いので、この構成はとても考えられていると思いました。

 二つ目に、リーダーの登場です。日テレの場合は、氏家氏という読売新聞社の敏腕記者だった方の社長就任です。氏家氏の登場で、フジテレビに勝つぞ、日本テレビを再生するぞという雰囲気が作り出され、皆が同じ方向を向けたと書かれています。また、フジテレビの1980年代の改革にも鹿内氏の存在が重要であったとあります。
 今まで読んできた本でも、成城石井の石井良明氏、無印良品の松井忠三氏など企業の拡大や変革期には強力なリーダーシップや合理的な思考を持ち合わせている人の存在がキーであると感じました。実際、私自身の経験からも、リーダーの存在は重要だと感じます。私は居酒屋のアルバイトをしているのですが、以前働いていた職場と現在の職場では、店の雰囲気が違います。それは店長の存在が大きいと感じます。以前の職場の店長は、やる気があまりなさそうに仕事をしていて、他のスタッフもそれにつられていて、変な雰囲気があり、売上もよくありませんでした。しかし、現在の職場は、店長のやる気があり、とても気さくな方でもあるため、お客様にも伝わるくらい良い雰囲気ができていて、売上も好調に推移しています。したがって、日テレにとっても氏家氏の存在は大きかったであろうと思います。

 最後に、上記で述べたリーダーの存在とマーケティング戦略の二つがうまく相乗効果を発揮したことによって、日テレが復活を遂げたのだと思います。また、マーケティング戦略の中の視聴率を顧客満足度に置き換えて考えることによって、アルバイトでの接客などにも活かしていきたいと思います。そして、マーケティングを勉強している中、身の回りにもこのような戦略はたくさんとられていると思うので、アンテナを高く張っていきたいと思いました。

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日本テレビの「1秒戦略」を読んで
求められる「徹底的に分析して法則を導き出す力」 川口寛貴

 本書は、日本テレビがテレビ局間の熾烈な競争をどのように勝ち抜いてきたのかについて、マーケティングや企業戦略の視点から述べられた本である。「楽しくなければテレビじゃない」というキャッチフレーズを打ち出し、フジテレビは「80年改革」によって一気に花開き、12年連続で年間視聴率三冠王をとってテレビ界の王者だった。一方で、日本テレビは当時暗黒時代だったと言えるほど低視聴率に沈んでいた。逆転を狙う日本テレビは、「フォーマット改革プロジェクト」によって、視聴率、収入、局のイメージの3つを改善させていく。具体的には、まずフジテレビを徹底的に分析し、「コーヒーシュガー理論」など5つの戦術を掲げ、実行していった。日本テレビはテレビの世界にマーケティングの手法を持ち込み、視聴者のニーズを番組に反映させることで、売れるタイムテーブルを作り上げていったのである。

 本書の印象に残った点は2点ある。それは、明確な戦略を打ち出すには、まず自社と競合を徹底的に分析することが必要だということが示されている点と、分析した上で、フジテレビとは異なる「視聴率至上主義」というマーケティング志向の戦略を実行し、成果を出した点である。これらは現代のビジネスでは必須な行動・考え方である。そして、徹底的に分析することはゼミ活動にも活かせると私は考えた。本書を読み終えて私は、ゼミ活動の中で何か分析できるものはないかと考え、昨年度ゼミ生が発表に使用したレジュメを分析してみることにした。

 まず、評価が高いレジュメをいくつか分析し、それらの共通点や特徴をリストアップして、今後のレジュメ作りに活かそうというわけである。ピックアップしたレジュメの基準は私の主観であり、ゼミ生にアンケートを取るなど客観的なデータで選んだわけではないのが問題ではあるが、そこは目をつむっていただきたい。今回、評価の高い良いレジュメとはレジュメだけを見ても概要を理解できるものと定義する。分析してみた結果、評価の高いレジュメの共通点は、文章の内容と視覚的な見やすさの2点に集約されると考えた。
 そして、それらのレジュメの具体的な特徴をリストアップしてみた結果が以下である。

・文章の内容における特徴
① 直訳ではない大学生が理解しやすい日本語
② 一文が長すぎない

・視覚的な見やすさにおける特徴
① 字体がメイリオ
② ベースとなるカラーが決まっていて、使われる色は3色まで
③ トピックごとに枠線で囲まれている
④ 左右のバランスが均等に近い

 目新しい発見のないなんともありきたりな特徴ばかりになってしまったが、これらを踏まえて、私自身がプレゼミの時に作成したレジュメを見てみると非常に面白いことがわかる。ほとんどの特徴が当てはまらず、レジュメだけを見ても概要がほとんど理解できないのである。
 今思い返すと、当時は強調すべき一文をとにかく大きくしてみたり、太字にしてみたりしていた。昨年度作成したレジュメを見返してみて、最初の頃に比べると3年生後期に作成したレジュメはだいぶ改善されたなと思いつつ、これからも分析し続けて、良いレジュメの法則を探っていかなければならないと感じた。日本テレビのように「改善し続ける強さ」を自身の強みにできるよう努力していきたいと思う。
 
 今回はレジュメを分析してみたわけだが、「徹底的に分析して自分なりに法則を導き出す力」は今後社会でも必須となるであろう。本書はこの力がビジネス上の課題を解決していく上でも重要となることを改めて感じさせてくれたのである。ちなみに、ピックアップしたレジュメのうち、ほとんどが昨年度の4年生のレジュメだったので、1年間の差は大きいなと感じた。それと同時に、今年度は4年生としてレジュメ作りにおいても「3年生のお手本にならなくては。」と気持ちが引き締まった。

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『日本テレビの「1秒戦略」』を読んで 斉藤舜人

 私は根っからのテレビっ子である。普段何気なくテレビの電源をつけ、その時の気分で面白そうな番組を選択し、満足感に浸っている。しかし今回、『日本テレビの「1秒戦略」』を読んで、テレビ局の緻密なマーケティング戦略が私の心理を掴み、番組選択の決定権を握っていることに気がついた。それと同時に、番組が視聴者に選ばれることの難しさを知ることが出来た。

 今思い返してみると、『ザ!鉄腕!DASH!!』や『世界の果てまでイッテQ!』をはじめとする日本テレビの番組を選択する事が多い。実際に友人10人に尋ねたところ、8人が同じ番組を観ていた。私たち視聴者側からしてみれば、「面白い番組だから観る。」の一言で片付くかもしれない、しかし制作側のテレビ局からすれば想像を超える努力の賜物であることが分かった。このように、ここ数年は日本テレビの黄金時代であるわけだが、これを築き上げた過程において、最大のライバルであったフジテレビとの一番の相違点は何よりも「マーケティング戦略」であり、テレビ局での視聴率獲得におけるマーケティングの重要性に驚嘆の一言であった。

 私が最も印象に残ったのは「視聴者本位」というキーワードだ。これこそがフジテレビとの一番の違いであり、現在の差を生み出す最も大きな要因であると私は感じた。マーケティングにおいて、最も重要なのは「消費者ニーズを的確に捉え満たすこと」である。「楽しくなければテレビじゃない」という「番組主義」のフジテレビとは対照的に、日本テレビの徹底された「視聴率至上主義」つまり「変化する視聴者ニーズに応え続けること」が視聴者に選ばれ、両局の明暗を分けた最大の理由だろう。

 著者はフジテレビを丸裸にすべく、日本テレビの視聴率推移を一秒ごとに細かく分析し、改善点を洗い出していた。その中で、「紙ヒコーキ理論」と「タイ焼きのシッポ理論」、「またぎ編成」、「コーヒーシュガー理論」などの戦略を打ち立て、当時の常識を打ち破るフォーマット改革を行っていた。これら全てが視聴者を取り込み、視聴率を獲得するための革新的なマーケティング手法であると私は感じた。先日、私が授業で取り上げた「ナイキ」の革新的なマーケティング手法しかり、日本テレビのフォーマット改革しかり、常識外れとも言えるイレギュラーな戦略だが、両者とも共通して根底にあるのは「消費者すなわち視聴者」である。何よりも視聴者目線を大事にし、他社との差別化を図った結果、日本テレビは視聴率黄金時代を築けたのだと私は感じた。

 これまでマーケティング戦略を主体に感想を述べたが、もう1点印象に残ったことがある。それは、当時の社長である氏家齊一郎氏の強力なリーダーシップである。氏家氏は全社的に覇気を持たせ、「年間を通してグランドスラムをとる。」という共通の目的意識を社員一人ひとりに持たせていた。また、若手を活かす「ボトムアップの風土」を作り上げたことが、マーケティング戦略を成功させた何よりの鍵であると感じた。

 私は居酒屋チェーンでアルバイトをしている。店長は年間売上店舗1位を目指し、その日の売上目標は100万円など、アルバイト全員に目標の共有をしている。これにより、共通の目的意識を社員からアルバイトの全員が持ち、同じベクトルを向いて高いモチベーションを持って営業することが可能となり、数多く目標の達成を成し遂げている。

 このように、組織として最大限の結果を残すためには全員の目的を統一することが必要とされるなか、氏家氏は持ち前のリーダーシップをフルに活かし、理想の組織を作り上げていた。失敗を恐れずに、失敗から学ぶ姿勢を定着させたことも氏家氏のリーダーシップの凄みであり、非常に尊敬すべき能力だと感じた

 最後に、今後のフジテレビについて私なりの考えを述べたい。
 日本テレビは「緻密なマーケティング」と「氏家社長の強力なリーダーシップ」により大きな成功を収めた。対して、フジテレビは番組クリエイターに頼りがちな風土のもと衰退していった。私が尊敬する某東証一部上場企業の社長の言葉に、「企業は変わらなければ滅びる」というものがある。日本テレビは変化する視聴者のニーズに応え続ける番組制作、また、ボトムアップの風土を築き、新しい風を社内に吹かせたことで黄金時代を築いたのだと本書を読んで私は感じた。
 対して低迷期にあるフジテレビは、かつて日本テレビがそうした様に、現時点での王者である日本テレビを分析し、視聴者目線のマーケティングを行わなければ明るい未来は訪れないと私は考える。現にクリエイターのアイデア1つで番組を制作してくことに限界が見え始めている。若手の育成も完璧とは言えない状況において、当時の輝きを取り戻し今後の復興を目指すのならば、固定観念に囚われずに新たな戦略を取り入れることは勿論、時にはライバルから学ぶことも大事なのではないだろうか。