こんなに緊張したことは、これまでに記憶がない。当たり前のことだが、女子大なので教室には女子学生しか座っていない。助手の林まやさんも女性だ。午後2時45分にはじまる講義のはじめから、男子がわたしひとりであることに大きな違和感を覚えていた。
講義がはじまって30分ほどたっても、気持ちが落ち着かない。そもそも新しい教室のあるビル(Y棟)の中を歩いている人間は、わたし一人だけが男子だった。すぐにやったことは(笑)、男子トイレを探すことだった。うまいことに、入り口の一番近いところに男子トイレがあった。とりあえずは、安心。
授業がはじまる45分前に、指定されていたY207教室に入った。実は心配だったので、持ち込んだPCを早めにプロジェクターに接続してみた。慎重に時間管理をしておいたことがよかった。自宅から持ち込んだPCは、教室に設置してあったTV画面にうまく接続できなかった。
トラブル対応で情報センターに連絡をしてみた。救援に駆けつけてもらった助手のかた(これも女性!)が、トラブルを解消できず、プレゼン用にはまやさんが持ってきたPCを使用することにした。
最悪の場合は、持参した紙ベースの資料を4点、使ってやるしかないと思っていた。PCの接続を確認している間に、特論Ⅱをとるつもりの女子学生たちがに入室してきた。30分前に約15人、15分前になったら24人に増えていた。予想していた18人はオーバーしそうだった。
定刻より10分前に授業をはじめた。全員が座っているからだ。
シラバスの説明をしている間に、ようやく気持ちが少しだけ落ち着いてきた。すこし長めの「自己紹介」のあとで、「講義1:マーケティング事始め」の話をはじめた。社会学部の学生なので、経営学部で教えていた時のようには、一般的な経営学の知識は薄いかもしれない。
でも、ひとりひとり順番に当てていくと、まじめに答えてくれる。気持ちの良い、まじめそうな学生ばかりだ。一番驚いたのは、教室でPCを持ち出してメモをとっている学生がひとりもいないことだった。みなさん、ペンでノートにメモを取っている。
途中で、わたしを京女に読んでくださった西尾久美子先生が、教室に顔を出してくださった。女傑の西尾先生は、「この授業、おもしろいから取りなさいね!」と学生たちにわたしをプッシュしてくれた。ありがたいことだ。
とりあえず、時間通りには授業を終えることができた。冷汗ものだった。授業が終わるころ、教室に座っている人数を数えてみた。最終的には、27人になっていた。全員が履修するかはわからないが、西尾先生にお願いして、教室を少し大きなのに変えてもらった。隣の建物の中にある、C201号室。
グループワークをやってもらうには、Y207では教室が手狭だ。全員が戻ってくることを祈るのみ。早速、本日早朝(8時)に、ひとりの女子学生(Fさん)からメールが来た。「経営学の知識がないので、授業についていけるかどうか不安です。発表用にパワポもできません」というメールだった。
彼女のメールに、以下のような返信をしてみた。
> Fさん
> こんにちは。雨ですね。
> 授業に興味をもっていただき、ありがとう!
> 経営学の知識があるかどうかは問題ありません。
> これから勉強すればよいと思います。
> わたしが教えますので、ぜひチャレンジしてください。
>
> また、発表用のパワーポイントは機会があれば
> 練習するようにしてみたらどうでしょうか。
> いまできるかどうかは、気にしてなくていいと思います。
> 実際には、5~7人のメンバーの誰かが当面は
> その役割を担ってくれると思います。
>
> マーケティングはおもしろくありませんか?
> ぜひ、受講にチャレンジしてみてください。
> このようなメールをいただき、わたしもうれしく思います。
> 来週の時間に、「Fです」とわたしに声をかけてください。
>
> おがわ
このメールには、彼女から1時間後に返信が戻ってきていた。
> 京都女子大学現代社会学部のFです。
>
> お忙しい中返信ありがとうございます。
>
> 経営学についてもっといろいろなことが知りたいです。
> マーケティングについてもまだあまりはっきりとしたイメージがわきませんが、
> とてもおもしろそうなので受講にチャレンジしてみようと思います。
>
> パワーポイントについても、この機会に練習して使えるようになりたいと思います。
> 小川先生が、今できるかは気にしなくても良いと言ってくださって、受講するこ
> とがとても楽しみになりました。
> これから勉強してたくさん知識を増やしていきたいと思います。
> はい、声をかけさせていただきます。
> 来週からもよろしくお願いします。
印象のよいメールだった。何だか心がすっきりした。
正直に言えば、「毎週、京都に通うのはしんどいな」と思っていた。
しかし、今朝のメール2本で、「この子たちに経営やマーケティングを
しっかり教えてあげたい」と思った。