NOAFの設立シンポジウムが終わった翌日(7月17日)、元大学院生の山下俊一郎君(広島のトラック会社ムロオ、社長)から、つぎのようなメールをもらった。設立シンポジウムについて感想を尋ねたところ、返答をくれた。編集して紹介する。
先日はありがとうございました。大勢の方々が参加されておりびっくりいたしました。あれだけの熱量をうまくコントロールしたいですね。
徒然なるままに失礼します。僭越ながら、(自分も仕事で)悩んでいることに一致するのでお話をさせていただきます。オーガニックの市場拡大を目指すところには違和感はなく、先日もアメリカやヨーロッパなどでオーガニック食品の売り場が拡大している中で、世界的にも大きな流れがあると思います。日本のオーガニックが遅れてる理由は、私が思うに2つあります。
一つは食に対する幻想です。日本の食品は世界一安心、特に中国や東南アジアなどに比べると安心安全である。との誤解です。小売り、外食に並んでいる食品に高い信頼を持っているなか、この信頼が崩れるような社会不安が起きるほど、オーガニック市場には有利と言わざるえないのではないかと。
もう一つは医療費の負担です。アメリカでオーガニックが進んでいるのは医療費が高いからです。誰もが病気になりたくない、病気への予防の意味合いが強いと思います。医療負担が充実している日本では、アメリカほどのニーズは低くなると思います。したがって、(オーガニックを普及させるには、なんらかの)変わる仕掛けがいると思います。
いい文献がないのですが、ヨーロッパでも感じたことです。私の予想ですが、各国のオーガニックの浸透度とその国の医療個人負担は関連性が出ているのではないかと思います。これから個人負担が増える日本では、オーガニックが増える可能性があるとも言えますが、気の長い話になってしまいます。
最近でも、こだわりの野菜やオーガニックの商品を取り扱う小売(*ライフのビオラル)が多少ながら出てきております。大手のスーパーでも、海外のオーガニックの店舗の導入など(*イオンの事例)も始まっております。現段階で言うことではありませんが、オーガニック化が進む中で、オーガニックもコモディティ化してしまうのではないか?アメリカでもウォルマートも展開を始めた中で、同様の懸念も出てくるのではないかと思います。
消費者としてはよい話ですが、小売り、生産者にとってはどうなのでしょか。このたびの会合には福島屋さんをはじめとしたこだわりの小売りさん、大手のコンビニ、スーパーさんなども来られてました。会としては安心、安全、おいしい食材(オーガニック)の時代が来るので、農家さんを農業を応援しようとの主旨だと思います。
生産者 オーガニックなどのこだわり商品の生産を増やし、売り先を販売量を増やしたい
流通業者 世界的なブームのオーガニックに乗り遅れたくない、自分の売り場に売れるオーガニックを増やしたい
消費者 おいしい食事を食べたい。できたら安く食べたい
関係者の思いがつながっているようでつながっていない違和感を、これからどのようなストーリでつなげていくのかをもっと具体的に進めていく必要があると思います。
<小川からのコメント>
個人の医療費負担のちがいと安心安全神話。もっともな指摘だと思います。とりわけ、医療費負担の問題は、これから深刻になるかもしれません。日本でも、たぶん肥満の問題や食品の安全問題が、この先の大きなテーマになります。
また、ご指摘のように、設立シンポジウムの挨拶でも述べましたが、3者(生産、流通、消費者)の間には、深い河の淵が横たわっています。ただし、欧米の生産者と流通業者は、政府(EUは共通農業政策と米国は農業補助金)と一緒にここを乗り越えて行きました。山下君が懸念するようには、わたしは克服が不可能だとは思っていません。
最大のポイントは、農業の生産性(新規参入と技術の活用)と自給率の向上(目標設定)にあると思っています。そして、外的な環境への適応です。気候変動による食料不足と国際穀物相場の乱高下は、目の前に迫ってきています。これは、オイルショック時の衝撃に近い形になるというのが、わたしの予言です。
そのようなリスクを抱えた農業(食料事情)の未来に対して、自国でコメ以外の穀物を供給できていないのは、先進国では日本だけです。だから、カルビー元社長の松尾雅彦さんのように、わたしも稲作に過度に依存する農業体系は根本から見直すべきだと考えています。供給不足の時代に、比較優位の原則は無意味です。だって、安心な食べ物が確保できなくなるのだから。
農業分野ではグローバリゼーション対応を適度に抑えて、いまこそ食糧に関して「準鎖国」を推進しましょう。その答えの一部で、オーガニック・エコ農業の推進と食料自給率の向上が結びつくはずです。いつまでも、農薬と化学肥料に依存することもできないはずです。
山下君が心配する「オーガニックのコモディティ化」の前に、わたしたちが取り組むべき課題は、山ほどあります。そのことに、大手の流通がまず気が付き始めています。それを支援する形で、わが国の食品メーカーが動き出すタイミングだと思います。もちろん消費者が動き出さないと何も変わらないのですが。