小川先生ら7人の侍、千葉県八街で農業生産法人を立ち上げる

 本気で農家になるつもりはなかった。徳江(倫明)さんの依頼は冗談だと思っていた。しかし、ワタミファーム元社長の武内智さんから先月、出資金の振込みを依頼された。昨日は、本人が直々に新会社の定款にサインをもらいに研究室にやってきた。こりゃあ、もう始めるしかないだろう。



 新会社は、「共同会社シェアガーデン」(農業生産法人)。たまたま今年の大学院ゼミ生、小林大亮くんのプロジェクト「Shared Brewery」と名前がかぶっている。小林君の会社(ビール醸造所)は、ビールの製造設備を趣味家がシェアするものだ。シェアガーデンの方は、レストランや小売店などに対して、有機野菜(穀物・果樹)の栽培スペースを貸し出す方式だ。
 写真でしか見ていないが、八街の土地は土壌が肥沃そうだ。2haの農場は、八街駅から歩いて1KMのところにある。歩いていけないこともなさそうだ。「有機野菜などを露地と施設で作る」と武内さんからは聞いている。将来は、10haまで拡張する予定だという。
 盟友の徳江さんは、「大地を守る会」の立ち上げに参加した鉄人だ。その後は、「らでぃっしゅぼーや」を創業した。彼が最後に手がけるのが、今回の「レンタル方式の農場」である。旧来型の提携のスキームではなく、「農地の貸し出し(シェアリング)」という今風のユニークなコンセプトである。
 別の見方をすると、農業SPAの新しい形を模索することになる。その提携先がレストランビジネスなのである。

 徳江さん以外に、農地のシェアビジネスに参画するのは、福島屋の福島徹会長とわたし小川(法政大学教授)。わたしたちは、したがって、”農家”の資格はない。生産現場を管理するのは、武内さんと農場長として八街に連れてくる若者である。販売先のレストランオーナーからも、この会社は出資を仰ぐことになる。
 ただし、農業生産法人として認可を受けるまで、その他の出資者や出資金額が非公表である。わたしとしては、今後、法政大学に拠点を持ってくる「農水省エコ農業プロジェクト(仮)」の展開しだいでは、その研修農場としたいと考えている。
 農業生産法人の制度が、4月から変わる。わたしのような非農家が、49.9%まで出資できるようになる。また、土地の集約が進む中で、中間機構からの支援を受けることもできる。
 
 世間がTPPで騒いでいる間に、わたしたちのようなベンチャー起業家が、さまざまな形で農業分野に参入できるようになった。農業特区も各地に増えている。農業生産だけでなく、酒やワインやビールの醸造なども、こうした特区でならば可能であろう。これまでは選択肢が限られていたのだ。
 というわけで、自ら進んでというわけではないが、成り行きなのだが、それも運命だ。研究者が農業者になってしまうのだが、この先にどんな幸せと災難が待ち受けていることだろうか。