標記のふたつのテーマで、本日の午前中にインタビューを受ける。研究室に取材にやってくるのは、日経ビジネスの中野目副編集長。わたしの準備期間は一週間。前者はざまざまな雑誌(「BOSS」「東洋経済」)で取り上げられている。後者は、ここ数年間で顕著になっている現象だ。
<キリンビールの一人負け現象>
キリンビールの国内事業の低迷と海外事業の不調の原因は、外部環境と内部組織の問題に分けて考えられる。しかし、経済誌で述べられている現状の記述は、その原因ではない。すべて結果である。商品や組織に失敗の原因を求めることは正しくない。
同社の失敗の本質は、長期的な経営戦略の見通しの誤りに根がある。将来の有望分野への投資を怠った結果であり、重要な投資案件(M&Aや売却、事業の清算)を目先の収益性によって判断してきたからである。それも、ここ10年間での失策が痛かった。
致し方のないことなのだが、伝統的で大規模な企業組織は、なにもしなければ官僚的な組織に変わっていく。国内ビール事業とビバレッジは、しかし、かつての営業と商品開発のエースが社長として登壇する。もしかすると、キリンの復活はありえるのかもしれない。
その昔、三菱重工で戦車を組み立てていた父親は、ビールはキリンの「ラガー」しか飲まなかった。その息子としては、キリンビールの復活を願うばかりだ。わたしの知り合いで、最近同社を去った「一番搾り」の開発者や、アグリ事業を興した元副社長が、この5~10年間で経営トップに就任していればなど、物事を仮定法で考えてしまう。
とはいえ、海外事業はかじ取りが難しくなっている。投資先国(ブラジルやオセアニア)と買収すべき事業分野(ビール事業と乳製品ビジネス)を見誤ったからだと思う。
清算した研究開発部門や売却したアジアビジネス(中国)など、研究開発やアジア事業の種をすべて自らが摘み取って積んでしまっている。これらがいま、ボディーブローのように効いてきている。社員のモチベーションを高めるための「将来への夢」まで奪ってしまったからだ。
<百貨店のセレクトショップ>
百貨店の小型セレクトショップ展開は、伝統的な百貨店モデルが劣化しているからである。この20年間で百貨店は、業態として約3兆円の売り上げを失った。高額品全体の需要が減少したことと、一部は、駅ビルと郊外SC(ブランドショップの集積)に顧客を奪われたからだ。
ここ1年間での復活は、株高・債券高などでオールドリッチ(>60歳代)の消費需要が回復したからだ。しかし、ニューリッチ(30代後半~50代のベンチャー経営者や専門職)の需要と、郊外から都心に移住してきている団塊中間層(金融資産>1億円)に対応できていない。居住パターンと移動の仕方が変わったからだろう。
団塊世代の中間層は、本来は百貨店の有望な顧客層である。しかし、彼らが百貨店を利用するのは、お歳暮やお中元などギフトのためである。退職するとその必要がなくなってしまう。だから、百貨店は利用する必然性がない。豊富な蓄えは、海外旅行や自分たちの趣味に向かう。意外に、ネットショップやカタログ通販、セレクト系のショップを利用している。
そして、移動距離が短くなるから、都心までは頻繁にでかけない。身近なところ店がある方が便利だ。せいぜいターミナルである。だから、新しく生まれた市場に切り込むための手段が、小型セレクトショップである。ただし、都心部の小型店出店は、なにも百貨店に限ったことではない。量販店も独自に専門店チェーンを路面店で展開している。
その激戦市場で、百貨店が顧客を満足させることができる店を自主編集できるのか。
もっとも可能性がある伊勢丹あたりでも、成功確率は10%~20%程度ではないだろうか。その他の伝統的な百貨店は、そうした事業を成立させる内部資源(人材とMDのノウハウ)をもっているとはあまり思えない。
セレクトショップの展開では、他人の手を借りて売り場を作ることはできない。品ぞろえが限定されているからだ。また、都心の百貨店のように、不動産リース事業では利益は出せない。岡山駅前のイオンに出店した高島屋や、六本木ヒルズに出店した伊勢丹のようなケースでは、今度は逆に店子になってリース料を支払う立場に変わるのだから。
商品力と品揃えで勝負できないと、最終的には利益が出せないのである。これまでの百貨店ビジネスと真逆なチャレンジになる。しかし、大阪百貨店戦争の帰結(あべのハルカスやJR大阪三越伊勢丹の不振)を見るまでもなく、伝統的な百貨店モデルは飽和が歴然としている。