【スニークプレビュー】 「100円おにぎりの復讐」(マクドナルドを理解するためのコラムより)

 マクドナルド本は、制作が順調に進んでいる。第1章~第4章は完成。最終章「マクドナルドは永遠か?」を残すのみとなった。8月中の脱稿が確実になった。本日は、作業の途中に書いたコラムを紹介する。「セブンカフェがなぜ100円に設定されたか」についての逸話である。



<マクドナルドを理解するためのコラム③ 100円おにぎりの復讐>

 2013年秋に、セブン-イレブン・ジャパンが、満を持して「淹れたてのコーヒー」(セルフ方式)を発売することになった。値段は、先行して店頭でコーヒーを販売していた競合他社に比べても、最安値となる100円だった。
 100円の値付けだと、原価率は約60%だと言われている。通常の食品やドリンクであれば、粗利を60%以上取るのが普通である。コーヒーマシンの償却や消耗品のカップなど、その他もろもろの経費がかかる。40%の粗利では、ぎりぎりの値段である。
 にもかかわらず、鈴木敏文会長は、コーヒーを開発した担当者に「セブンカフェ」の値段を100円にするように命じた。これには理由があった。

 今から20年ほど前(正確な時期は調査中)のことである。現役時代のマクドナルド社長・藤田田氏と、セブンイレブンの創業者社長・鈴木敏文氏が対談をすることがあった。
 その対談の途中で、藤田社長が「セブンイレブンのおにぎりは高いのではないか?」と鈴木社長(当時)に感想を述べた。セブンイレブンのおにぎりは、当時は130円~150円だった。それに対して、マクドナルドのハンバーガーは100円を切っていた。マクドナルドの全盛期でデフレの真っ最中だった。
 鈴木敏文社長は、藤田社長の発言を聞いて憤慨した。本社のオフィスに戻ってきた鈴木社長は、部下を集めて、「できるだけ早く、おにぎりを100円で発売する」と宣言した。それを聞いたひとりの部下が、「コンビニエンスストアでは、セールはしない方針ではなかったのですか?」と当然な質問をした。
 鈴木社長は間髪を入れずに部下に答えたという。「これはセールではない、イベントだ」。これが、セブンイレブンがおにぎり100円セールを始めるきっかけだった。いまでも、セブン‐イレブンでは、100円おにぎりのキャンペーンが続いている。

 それから20年後、セブンカフェを販売するにあたって、セブン‐イレブンの社内ではコーヒーの値付けをどうするか争点になった。鈴木会長(現)の答えは、このときも明確だった。
 「マックカフェは150円だ」。その時に頭をよぎったのは、20年前の藤田田社長の言葉だったに違いない。「当然、マックカフェよりは安くしろ。できれば100円で」。
 偶然なのだが、コーヒーの値段を100円にしたことで、セブンイレブンは淹れたてコーヒーの販売で圧勝することになった。いまやセブン‐イレブンが、日本で最もたくさんカップ入りコーヒーを販売する会社になった。
 藤田社長のあの発言がなければ、もしかするとセブン‐イレブンがマクドナルドから顧客を奪うことにはならなかったかもしれない。100円おにぎりの復讐である。