道端を歩いていて、ふと目に留まる店舗がある。もともとショップめぐりが好きなうえに、わたしは小売店舗に対して動物的な勘が働くようである。
お店の前の人の動きを見ていて、「これぞ!」という店舗には、磁石に引き受けられるように自然と足が向いてしまう。
今年の4月16日(日)、福岡での講演会のあと、天神の地下街をふらふらと歩いていたときのことである。入り口がずいぶん混雑している店を見つけた。お店の前には、身なりの良い女性客が多い。生活雑貨の「Natural Kitchen」である。まったく知らない店だった。
事前知識がない場合は、まず店を周回して置いてある商品をチェックする。値段と品質と品揃えの鑑定である。店名の「ナチュラルキッチン」からの連想は、自然な素材をそろえているらしいこと、台所周りの商品が置いてありそうなことである。もちろんその二つはその通りであったが、店舗観察からのより強い印象は、「生活雑貨の100円ショップ!」であった。
つぎのステップは、店長さんらしき人を探し出すことである。レジで精算しているお客に応対していたのが、店長さんだった。いつものことではあるが、店長には3つの質問をする。①本社はどこにあるのか?②経営者はどのようなひとなのか?③店舗数と関連会社(業態)の存在は?回答は、①大阪が本社(Amuseful)であること、②元メーカーの輸入業務を担当していた村社長が2001年に創業、③「Natural Kitchen」の他に、「Kitchen Kitchen」、「Natural Plenty」で3つの業態を展開していること、全部21店舗である(現在は25店舗:詳しくは、同社のHP:http://www.natural-kitchen.jp/)。
店長さんに教えもらうこともあるが、その後は適当にお店を観察する。売り場面積は、約20坪(歩幅60cmで測定、タイルがあれば一枚30cm)、従業員は5人(正社員3人+パート2人)。30分間(午前11時~)の観察でわかったのは、客単価は平均700円、購入点数5~6点(単価100円+α)。日販は約60万円(客数850人)、年商は約2億円と推定できる。輸入雑貨を直輸入しているから、高収益企業のはずである。
後に同社HPのリクルート欄をチェックしてわかったことは、「Natural Plenty」の商品企画担当者に「簡易図面ソフトの基礎知識」を要求していることだった。自社企画開発商品をアジア地区の協力工場に発注していることが推測できる。Amusefulは、製造小売業(SPA)である。HPでのチェックは続く。「Natural Kitchen」(11店舗)の基本コンセプトは、「家族の成長・生活がキッチン(台所)からはじまるように、このナチュラルキッチンからより多くのお客様にゆたかでナチュラルな生活をはじめていただけるようなお店です」。また、「Natural Plenty」(8店舗)の店舗コンセプトは、「良質な自然素材を使ったファブリック、柳やアイアンの多きめのバスケットなど、よりゆとりのある暮らしを提案できるお店です。」となっている。
帰京後に渋谷マークシティの店舗(Natural Kitchen)などと実際の来店客を観察したわたしの印象は、しかし、以下のようなものであった。
「Natural Kitchen」 の主たる顧客は、都市部に住む一人暮らしの若い女性(コアな「LOHAS層」)で、自然素材を取り入れることでナチュラルな生活を楽しみたいひとたちである(一部は生活感度の良い主婦を含む〕。「100円ショップ」とは唱ってはいないが、ワンコインで購入できる利便性は、彼女たちの購入動機に大きく影響している。店内には小さなバスケットが置いてあって、それを抱えて店内をショッピングすることになる。福岡天神地下街店の店長さんによると、「あえて100円ショップであることを、POPや価格表示などには出さないようにしている」。チープな品揃えイメージを出したくないからである。なお、「Natural Kitchen」は100円の価格帯が中心で、「Kitchen Kitchen」は、そのうちの価格帯(200円、300円、500円)の商品も品揃えをしているところが違っている。
25店舗の立地を見てわかるように、大都市のターミナル駅ビル内(大阪あべ野、渋谷、吉祥寺駅ビルなど)か周辺のSCビル内に出店は限定されている。あそらく、3業態ともに、郊外型のSC内などへの出店数も増えてきそうである。なかなか魅力的な店舗を誘致することがむずかしくなっている現在、デベロッパーにとっては高収益が獲得できる期待の業態である。
なお、昨年春の時点で経営者への正式取材は断られたので、上記のコメントについては、正式な事実確認ができていない。解釈についても誤解があるかもしれない。あくまでも筆者の類推の域を出ていない観察記録である。