江ノ島電鉄は、若いころから、しばしばデートコースに使ってきた電車である。ずいぶんと楽しい思い出を残させていただいた。その江ノ電について、謎解きのコラムを発見した。鉄道マニアにとっては、たまらない内容だ。この記事は、江ノ電の謎をちょっとミステリアスに紹介している。
わたしたちの世代(昭和20年代~30年代前半生まれ)にとって、江ノ電と湘南の海は、中村雅俊主演の「俺たちの旅」で記憶に残っている場所だろう。記事を読んで、江ノ電が廃線の危機にさらされていたことを初めて知った。たしかに、はじめてこの線に乗った1970年代半ごろは、昼間の時間帯はほとんど乗客がいなかった。
わたしたちの先生連中は、かなりの数が鎌倉付近に住んでいた。いま思いだせただけでも、東大から米国エール大学に移籍して、いまは安倍総理の経済顧問をしてる金融論の浜田教授。同じく法政大学で教鞭をとっていた内藤教授(経営学)。逗子や藤沢に住居を広げると、もっとたくさんの教員が湘南の海外線にいまでも居を構えている。
また、文化人(作家や評論家)と呼ばれるひとたちがこの界隈に住んでいたことを知っていたので、学者の卵としては、湘南の茅ヶ崎、藤沢、辻堂、鎌倉のラインは、妙に憧れの場所だった。
だからではないが、週末にふらふらとデートコースに選んで、この場所に来て江ノ電に乗っていた。
週末も静かだった江ノ電が急に込み始めたのは、「俺たちの旅」のヒットからだった。1975年10月(日曜日午後8時~)からの放送開始だった。わたしが学部生のころで、放映期間は一年だった。数年後にはその続編があった。
主演の中村雅俊(同じ昭和26年生まれ)は、下宿仲間からは「かーすけ」と呼ばれていた。そして、のちに五十嵐純子と結婚することになるのだが。わたしとしては、かわいい嫁さんをもらえた中村雅俊が、実にうらやましく思えたものだった。
それから、数歳年下のサザンオールスターズの桑田佳祐も、やはり湘南の生まれだった。彼の歌にも出てくる「パシフィックホテル」の隣りに、もしかすると「日本マクドナルドの一号店」(茅ヶ崎店)が出店したかもしれないことを、今年になってから知った。
そんな横浜ー湘南・鎌倉ラインは、大学生のわたしにとっては、松任谷由美のドルフィン@横浜から連なる夢のような海岸線だった。なお、横浜・湘南エリアに、ひとりで行くことはなかった。いつも誰かしら女の子が一緒だった。
デートコースは、その都度でちがっていた。いま思うと、若者の浅はかな知恵だったのだろう。その都度に調べて、同じ場所に行かないようにしていた。だから、いく度も足を運んだ風景のどこかには、そのとき一緒だった女の子の記憶が埋まっている(苦笑)。
そういえば、30代や40代のころは、わたしもずいぶんと時間に余裕があった。明月院(あじさい寺)や報国寺(竹林寺)、銭洗い弁天などに、日本を訪問してきたオランダ人やドイツ人を連れて行ったものだ。浅草と鎌倉は、不思議と欧米人の受けが良いキラーコンテンツだった。
京都と並んで、この二か所はいまでも変わらない不動の観光地である。きっと、日本の文化の香りがするからだろう。
さて、江ノ電の謎は、ふたつあるのだそうだ。
①きっちり12分間隔で列車ダイヤが組まれているのは?
②混雑時でも増発が不要なのは?
以下のエッセイでは、見事にそのなぞを解いて見せてくれている。
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【連載】列車ダイヤを楽しもう 第8回 江ノ島電鉄、シンプルなダイヤに隠れた2つの謎を解く
(まいなびにゅーす)2014年7月6日(日)8時30分配信 マイナビニュース
「江ノ電」こと江ノ島電鉄は、ドラマ『最後から二番目の恋』をはじめ、数々のドラマや映画に登場する。江ノ電とドラマは縁が深い、というより、江ノ電はドラマに救われた路線といえる。1970年代に経営不振で廃線がささやかれた頃、日本テレビで鎌倉を舞台とした青春ドラマ『俺たちの朝』が放送された。このドラマは大ヒットし、ロケ地を訪れる人が急増した。江ノ電の収益も改善し、江ノ電を軸とした鎌倉・江ノ島の観光が定着したという。
その江ノ電の時刻表は単純だ。7時台から21時台まで発車時刻はまったく同じ。たとえば鎌倉発藤沢行は毎時0分・12分・24分・36分・48分の発車で、藤沢発鎌倉行も同じ。中間の各駅もきっちり12分間隔だ。日頃、江ノ電を利用する人は、最寄り駅の時刻表を暗記しているに違いない。なにしろ5つの数字を覚えるだけだ。
単純な時刻表となった理由は、単純なダイヤだから。単純なダイヤはつまらないと思ったら大間違い。じつはこの単純なダイヤが不思議だ。江ノ電は全線が単線で、それぞれの駅間距離も違う。パターン化しづらい路線に思える。ラッシュアワーと日中の運行本数の変化もない。朝の横須賀線は満員だし、鎌倉あたりから都心へ通勤する人も多いはず。それでも頑固なまでに12分間隔を維持している。
「なぜ発車時刻を統一できるのか?」「なぜラッシュアワーの運行本数は増えないのか?」、この謎は、実際に江ノ電に乗ればすぐにわかる。だから今回はダイヤを見なくても……、おっと、このままダイヤなしで話を進めたら「鉄道トリビア」になってしまう。今回もダイヤを作って、その謎を解いてみよう。
列車ダイヤ描画ソフト「Oudia」で江ノ島電鉄のダイヤを作ってみた。シンプルなダイヤだから入力も楽チン。列車ごとの時刻をコピー&ペーストして、発車時刻を修正するだけだ。早朝深夜を除いて見事なパターンダイヤとなった。単線、必ず同じ場所で列車がすれ違う。「ネットダイヤ」と呼ばれる姿である。
ここで注目すべきところは、鎌倉高校前駅と七里ヶ浜駅の間だ。上り列車と下り列車の線が交わっている。駅ではないところですれ違っているものの、江ノ電は単線だ。駅間ですれ違うなんて、ここだけ複線区間なのだろうか? いや、この区間も単線である。
種明かしをすると、ここには駅はないけれど信号場がある。「峰ヶ原信号場」といって、1953年に設置された。江ノ電を増発するために、ちょうど良いすれ違い場所を選んだ。ネットダイヤを作るためのすれ違い場所である。実際に乗りに行くと、駅でもないところに電車が停まり、すれ違っているとわかる。「なぜ発車時刻を統一できるのか?」の答えは、「そのための信号場を作ったから」だ。
では、もう1つの謎「なぜラッシュアワーの運行本数は増えないのか?」について検証してみよう。答えは簡単だ。すれ違いができる場所が限られているため、これ以上の増発ができないからである。12分間隔の間に線を足してみると、どこかで対向列車とぶつかってしまう。その付近の駅にすれ違い設備はない。
しかし、江ノ電だって通勤通学時間帯や帰宅時間帯は乗客が増えるはず。増加する乗客に対応するために、江ノ電は何をしているか? これも実際に乗ってみたらわかる。答えは簡単。列車ではなく、車両を増やしている。日中は2両編成、通勤通学時間帯は4両編成とする。これで通勤通学時間帯の輸送力は2倍になる。
通常は路線の設備に合わせて列車ダイヤを決める。しかし江ノ電の場合は、ダイヤに合わせてすれ違い設備を作り、ダイヤを変更せずに車両の数を増減して対応する。まさに逆転の発想というわけだ。単純なダイヤは手抜きではなく、鉄道会社の創意工夫の結果である。
江ノ電は江ノ島駅と腰越駅の間に路面区間がある。電車が自動車などに通行を妨害されると、定刻にすれ違いができなくなり、ネットダイヤは崩れてしまう。江ノ電のネットダイヤは、沿線の人々の協力によっても成立している。
(杉山淳一)