(続) 「和食のつぎは、和菓子でしょ。」(小川仮説)

 「世界に羽ばたく日本の食文化」(昨日の執筆)の続きをアップする。本論に入れないまま、約5ページを空費した。グローバルに和菓子が受け入れられている事実と「和菓子の世界制覇」という仮説を説明する。やっとここまで到達できた。


5 和菓子が世界に羽ばたく理由

 あんみつ、どらやき、羊羹など、伝統的な和菓子が、お寿司のように「世界標準」の食品になることが、読者には想像できないかもしれない。しかし、10年以内に、和菓子は世界のお菓子文化を制覇することになるだろう。その理屈を説明してみる。

(1)和菓子の国内消費は伸びている
 ちょっと驚かれるかもしれないが、和菓子の家庭消費は減っていない。総務庁の家計調査年報をみても、直近の2012年(2013年3月)では、「生和菓子」が、+100.3%(一人当たり)である。時系列で比較しても、生産・消費量は30年間にわたって増えている(1970年と1997年を比較したデータでは、和菓子の生産量は、300トンから376トンに増えている)。
 これは、和食が3つの理由から好まれるのと符合している。とりわけ「健康志向」「低カロリーだから」ではあるが、見落としてはならないのは、「味の好みの変化」がその理由に挙げられていることである。「日清オイリオ生活科学情報」(2013)によると、10年前と比べて、家庭料理として洋食より和食(とくに魚料理)が好まれるようになっている(登場回数が増加)。

(2)40歳を境に、洋食から和食に嗜好が変わる(年齢効果)
 これは、以前から経験的に感じていた仮説であった。ケーキ(洋菓子)しか食べなかったわが妻が、40代後半から「あんこ」(和菓子の代表)を食べるようになったからである。わたし自身も、いまやケーキ類にはほとんど食指が動かなくなった。和菓子一辺倒である。
 うれしいことに、具体的で科学的な証拠を発見した。やや古い調査データだが、味の素と関東学院女子短期大学の共同調査で、「食品の嗜好に関する研究(3):年齢階層、地域嗜好の特徴」(高橋史人、山口和子)という論文(1982年)があることを青木恭子(アシスタント)が見つけてきた(共同研究者のひとりに、友人の山中正彦氏の名前を発見!)。簡単に言えば、「日本人の主婦は、40歳を境にして、食事の好みが洋食から和食に変わる」である。お菓子の好みも、40代から洋菓子から和菓子に変わっていた。

(3)日本料理のデザートとしての普及
 フレンチのコース料理には、最後にデザートとしてケーキ類がついてくる。だから、日本料理(懐石料理、会席料理)のデザートとしては、和菓子がつきものになる。和食が世界を席巻すれば、世界の人々は一緒に和菓子を食べることになる。ヘルシーで美しくておいしいから、自然に和菓子は世界に広がっていくだろう。
 前回のブログで紹介したように、お茶やお花やアニメ・漫画と一緒に、日本文化を消費することになる。日本風のコンビニ(ファーストフード)の普及とともに、和菓子は世界を席巻するのである。最後に、老舗和菓子メーカーの海外での実践(兆し)を紹介する。

6 海外で成功している和菓子メーカー(3社)
 それでは、海外での和菓子の実売はどうだろうか? カリフォルニアでの体験は、一昨日のブログ(1月7日)で書いたとおりである。税関の統計データを見ると、日本からの菓子の輸出(スナック菓子も含む)は、年間5~6%ずつ増えている(東日本大震災の2011年を除く)。2012年は、金額で132億円である(+5.7%)。

 海外でも成功している和菓子メーカーとしては、老舗の3社をあげておく。羊羹で有名な「虎屋黒川」は、パリに直営店舗を持っているほか、米国では代理店(イリノイ州)を通して店舗販売をしている。広報部に問い合わせたが、輸出販売金額が教えていただけなかった。国際線の空港ターミナルには、必ずショップを開いている。
 二番目は、どら焼きで有名な「丸京製菓」(鳥取県米子市)である。氷温技術を利用して、添加物なしでも60日間もつどら焼きを製造している。売上(32億円)のうち15%が海外販売である。米国を中心に、中国・韓国・台湾・オーストラリア、欧州など世界15か国以上で1億3千万個(国内含む)のどら焼きを販売している。2009年時点(『日経ビジネス』2009年12月14日号)で、「2015年には売上100億円、海外比率20%」を目標にしているが、いまはどうだろうか?
 3番目は、最中とどら焼きで有名な「うさぎや」(台東区上野)である。二社に比べると一般的な知名度は低いが、個人的には、同社の「最中」が和菓子の最高峰だと思っている。4年前に亡くなったコンサルタントの渥美俊一氏(ペガサスクラブ創始者)からいただいたのがきっかけでファンになった。同社の和菓子は現在、ハワイの店舗で販売されている。販売金額は不明だが、現地でも人気だろうである(大学院生の小松田君の社長ヒアリングによる)。

 3社以外にも、たくさんの日本企業が和菓子の海外展開に挑戦している。この点に関しては、もうすこし詳しいデータも収集済みなのだが、前回ブログと合わせて、和菓子がいずれ世界に広まることはご理解いただけたと思う。