経営者たちの「ブラック企業認定恐怖症」

『ホワイト企業(仮)』(生産性出版)の取材で、CS(顧客満足)が高くて業績が良い企業の経営者をインタビューしている。「ホワイト企業」はわたしの造語である。従業員が気持ちよく働ける職場環境の企業を指している。用語的には「ブラック企業」(過酷な労働を強制する企業)の対語として用いている。



 8社の事例研究なのだが、5社目まで行ったところで、「ホワイト」という言葉のニュアンスに”引いてしまう経営者(担当者)が多いことに、著者として困惑している。「先生、タイトルが”ホワイト”企業だと、わが社を収録対象にできませんよ。社長や会長の意向なんです」(ある食品スーパー幹部)。
 担当者レベルではあまり問題はないのだが、書籍などで堂々と「ホワイト企業」と紹介してしまえば、「(どこかから、)ブラック企業のくせに、いい加減なことを言うな!」(ある経営者の懸念)と言われそうである。経営者たちは、その点を警戒しているのだという。わからないでもないが、ブラック企業が叩かれている今だからこそ、そうした良い企業の実践を紹介したいと考えてのことなのだが。
 企業の反応がそこまで敏感だとすると、タイトルの「ホワイト」での出版は、あきらめなけばならないかもしれない。ホワイトな経営者たちが、「ブラック(企業)」という世間の視線(メディアのレッテル)に恐怖を感じている。「ブラック企業認定恐怖症(シンドローム)」である。なんともやっかいな問題だ。

 今月末まで、あと3社の取材を残している。『日本で一番喜ばれているサービス』の提供企業群である。各業界のJCSI(顧客満足度)ナンバーワン企業のグループを取材した記録である。制度的にも実際的にも、そうした企業は従業員にもやさしい。
 ただし、わたしなどが事例としてとりあげて、会社の名前を有名にしてしまえば、”寝た子を起こしてしまう”リスクを冒してしまう。結果として、ホワイトな会社(経営者)に迷惑をかけてしまう。大いなるジレンマである。
 取材で残っている3社とは、クロスカンパニー、劇団四季、シンガポール航空の3つである。