親しい経営者の会社が、どういうわけか「ブラック企業」の最上位にリストアップされている。新聞や雑誌の特集記事で、ファーストリテイリングやワタミなどは、いまや黒衣企業の常連である。メディアで特集を組めば、販売増が確実だからであろう。
しかし、なぜいまになって、「ブラック」というラベル表現が受けるだろうか?
特集ではあまり指摘されていないが、日本の若者たちが置かれている今の雇用環境とこれは密接に関連しているように思う。冷静に分析してみるとよい。かつて若年労働者に対して雇用を創出してきた製造業では、工場の海外移転で雇用機会がほぼ消滅している。
海外に単身赴任する勇気ある若者もいるが、彼らはまだ少数派である。そうした中で、持続的に国内で成長している小売りサービス業が、若者の雇用の受け皿になっているという現実がある。しかし、小売りサービス業は、本来的に労働環境が厳しい職種である。だから、たとえば、わがゼミ生たちは、フィールドワークであれほど流通業の現場を見てるのに、(だからこそ?)ほとんど全員が小売業を第一志望にしない。
他方で、海外に出て行くほどの気概を持たない若者が、国内で急成長しているサービス業で働くと、どんなことになるのか?3年間の離職率が5割にもなる(「それをやったら「ブラック企業」『日経ビジネス』2013年4月15日号)。それは当然だろう。その典型例が、『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました』(大宮冬洋著)に記述されている。
この現実に対する確かな処方箋はあるのだろうか?
日経ビジネスの特集号は、副題が「いまどきの若者の鍛え方」となっている。伊藤忠商事の事例(山登り)や自衛隊の研修制度が紹介されている。ファーストリテイリング(柳井社長がインタビューで登場)も、店長業務を見直したり相談窓口を設けるなど、若手社員への対応を変える施策を発表している。大宮著「町田店」の「無残な現場」の暴露には懲りた様子ではある。
もちろん教育の問題は大きいのだが、それ以前に、企業側の採用のやり方に問題があるように感じる。来年度からは、安倍首相の肝いりで、就活の開始を4月解禁にするらしい。だが、そもそも、新卒を一斉大量に採用するいまの採用方法がよいのかどうか。
いまの就職の仕組みは、高度経済成長時のモデルである。グローバルな市場を対象にビジネスを展開する企業と若者に対しては、終身雇用を前提にした「囲い込み型の採用方式」は効率が悪そうなのだ。むしろ文科系の学部では、大学時代から試用期間を活用した「インターンシップ型」の採用方式が有効なのではないだろうか。
それと、若者が最初に就職した会社に、5年で2割しか残らないことをあまり問題視すべきではないだろう。一般社会でも、3回くらい離婚するのは、いまやそれほど異常なことではない。いわんや「転職が悪」だと決めつけている論調は間違っているのではないか。辞めるかどうかを判断するのは、会社側でなく個人の都合である。辞める自由があり、実際に辞められる環境にいられるのは幸せなことではないのだろうか。
欧州や米国の若者と比べて、アルバイトや派遣ではあっても、日本ではとりあえず働こうと思えば仕事はあるはずだ。完全失業率が一桁の国はそんなに多くはないのだ。たしかにもきびしい現実はあるだろうが、働く意欲と向上心があれば、心身ともに健康であれば、それなりの働き口はあるものだ。
事実、『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました』を執筆した大宮冬洋さんは、フリーのライターとして成功している。ユニクロ町田店(154番店)で当時働いていた同僚たちも、それほど悲惨な今を過ごしているわけではない。書かれて日々の仕事はきびしかったのだろうが、それは彼らの後の人生にとっては、生きるための糧になっている。