マクドナルドが、来年1月4日からビッグマック・キャンペーンを実施すると発表した(期間は約1か月)。大学院の授業で、「顧客の待ち時間(の短縮)と従業員のスマイル(の消滅)の関係」を検証している。顧客の動きとクルーの作業の様子から、「会計後60秒を超えたらビッグマック(無料券)を進呈」という施策はうまく機能するだろうか?やや疑問である。
推測の根拠は、以下のようなロジックからである。まずは、「時事通信」のネット配信記事(12月20日)を見てみることにしよう。
「会計後60秒超でビッグマック無料=マクドナルド」 時事通信 [12/20 19:01]
日本マクドナルドは20日、店頭での会計終了後、60秒以内に商品を提供できなければ、「ビッグマック」などのハンバーガー(一部商品を除く)の無料券をプレゼントすると発表した。来年1月4日から31日までの午前11時~午後2時に全国約3300店舗で実施する。60秒以内で提供できた場合でも、「プレミアムローストコーヒーSサイズ」の無料券をプレゼントする。
発端は、7か月連続の「売上高対前年割れ」にある。5月以降の売上高の減少では、客数が増えたのに、それ以上に客単価が下落していった。10月からはじまった「カウンターからのメニュー表の撤去」は、待ち時間を短縮させることで客単価と客数の同時向上を狙った施策であった。
店頭観察データを分析してみると、来店客がレシートを受け取るまでの(カウンターに立ってから精算するまでの)待ち時間は、25秒ほど短縮されていた(55秒→30秒)。たしかに、狙い通りに、待ち行列も短くなった。したがって、客数は増加すると予想されたのだが、10月の月次データを見てみると、予想に反して客数も客単価も同時に下がってしまったのである。
困惑したマクドナルド経営陣の対応は、一時的にクーポンなどのプロモーションを止めることだったようだ。そして、11月の月次データが発表になった(月次データは、本HPにも転載)。対前年比で客数は微減、客単価も微減、結果として、売上も微減であった。
さらに、その先を考えてみよう。12月の月次データは、自民党の12衆議院選圧勝で、一般的にはやや改善されるはずである。そして、次なるマクドナルドの施策は、(1)客単価を上げて(元に戻して)、(2)作業時間を短縮すること(注文を受けてから商品提供までの時間の短縮)である。
時事通信の編集記事は、公式HP上で紹介されている「ビッグマックキャンペーン」の説明とはややニュアンスが異なっている。そこで、マクドナルドのHPで掲載されているIR情報をそのまま引用する。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
“唯一無二のおいしさ”を今味わおう!(12月20日、日本マクドナルドのサイトより一部編集して引用)
「ビッグマックキャンペーン」
2013年1月4日(金)より日本マクドナルド株式会社(本社:東京都新宿区、代表取締役会長兼社長兼CEO:原田 泳幸)は、人気定番メニュー「ビッグマック」のマーケティングを強化し、同商品のおいしさをお客様に改めて味わっていただく「ビッグマックキャンペーン」を、2013年1月4日(金)より開始いたします。
<「ビッグマックキャンペーン」実施内容>
(1)「ENJOY!60秒サービス」キャンペーン
お会計終了後から商品お渡しまでの時間を砂時計(ドライブスルーはタイマー)で計測し、60秒を超えて商品をお渡しした場合、「ビッグマック」等のハンバーガー類と交換できる無料券をご提供いたします。温かくおいしい出来たての商品を、スピーディーにご提供するマクドナルドの「メイド・フォー・ユー」システムを、ゲーム感覚で楽しみながらお客様に改めてご体験いただきます。(中略)
(全てのオーダーが対象となります)。また60秒以内にご提供できた場合も、「プレミアムローストコーヒー(ホット/アイス)Sサイズ無料券」をプレゼントいたします。
(※)「クォーターパウンダー・チーズ」「ダブルクォーターパウンダー・チーズ」「メガマック」「テキサスバーガー」除く
実施期間 – 2013年1月4日(金)~1月31日(木)
実施時間 – 上記期間中の午前11時00分~14時00分
実施エリア – 全国のマクドナルド店舗(一部店舗除く)
<先行実施店舗>
下記の2店舗では全国に先駆け、同キャンペーンを先行実施いたします。
・マクドナルド六本木ヒルズ店:2012年12月20日(木)午前11時50分~
・マクドナルド御堂筋周防町店:2012年12月21日(金)午前11時00分~
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
このキャンペーン紹介記事を見て、読者はどのようにお感じになるだろうか? ビッグマックキャンペーンの本当の狙いはどこなのかを解説してみる。
第1の狙いは、ビッグマックなどの注文比率を高めて、客単価をアップさせることだろう。なぜなら、このところ、単価の安い商品(1~2点)しかオーダーしない「チェリーピッカー」が増えてきたからである。それを反転されるためのキャンペーンである。
第2の狙いは、既存顧客のリピート獲得である。「60秒以内にご提供できた場合も、「プレミアムローストコーヒー(ホット/アイス)Sサイズ無料券」をプレゼントいたします」は、そのためのクーポン券配布である。
第3の狙いは、作業時間の短縮である。砂時計で60秒を計測しながら、顧客の遊び心をくすぐりながら、クルーの作業を改善させようとしているらしいことがうかがえる。前者(遊び)はうまく機能しそうだが、後者(時間短縮)はきびしいと予想する。なぜならば、クルーの作業時間は、すでに限界に達していると感じるからである。
その根拠を、以下ではやや詳しく述べる。
店頭を観察していると、客単価の安い商品をオーダーする顧客が増えている。これは、7年前からはじまった店舗規模の拡大と客数増のための集客プロモーションのやりすぎが原因である(当初は大成功だったと思うが、何事もやりすぎは問題である)。
そのために、待ち時間を短縮しても、作業時間は絶対的に増えているように見える。注文から商品提供までの時間は、基準の2分30秒(3分以内)におさまらないケースが増えている。大学生たちが、商品提供までの時間ヒストグラムを作成してくれたが、少なくとも、市ヶ谷地区のマクドナルドでは、サービスの外れ値(>5分)が異常に増えている。
思うに、サービス業の基本である「サービス(スマイル)」と「クレンリネス(清潔感)」がマクドナルドから消えつつある。これを、「さらなる作業効率の改善だけ」で乗り切ろうとするには、かなり無理があるのではないだろうか? もっと基本的に立ち返るべきだと考える。