しばしば、セクハラ教授と言われている。とくに美しい女性たちを見ると、ついつい不用意にも、「お美しいですねぇ。きれいですよね」と言ってしまうからである。単に正直者なだけなのだが、美しい女性に向かって、「いやー、おきれいですね」というのは、それが本当のことであっても、セクハラ行為にあたるらしい。
元K社の執行役員だった松島さん(現、JFMA専務理事)によると、「小川先生(のようなセクハラ発言を平気でするような人)は、K社にはまずいられませんよ」となる。
K社には、きびしいセクハラ倫理規定があるとのこと。わたしのような人間は、訴えられるか、シカトされるか、とにかく、存在そのものが許しがたくなるものらしい。
大学でも、最近は、セクハラ防止委員会やセクハラ防止規定ができている。女性に対する職場での対し方が、むかしとはうって変わってきている。ほめの言葉を発するのでさえ、むずかしくなってきているのである。
さて、一昨日(8月6日)のことである。黒田さんと中田さんという二人の若い女性の訪問を受けた。某地方銀行の紹介である。黒田佳奈子さんは、一般社団法人「日本CIS認定協会」の事務局長、中田裕子さんは、同協会の理事である。
法政のわが研究室を訪問してきたのは、わたしがJCSI(日本版顧客満足度指数)の開発委員会座長で、某地方銀行のしごとを受けているからである。接客サービスについて、その地銀の役員が、「知っている協会があってCSの調査をやっています。先生のところで、何かのお役に立てるかもしれませんよ」ということだった。
彼女たちとしては、協会が運営しているサービス(CIS)を紹介するために、研究室を訪問してきたのである。ベンチャーリンク系列の会社だった。同社をわたしが知っていたので、説明は簡単だった。昨年の二月に協会を立ち上げて、いまは地方の金融機関を中心に、接客のマイスターを育てている。社内サービス研修を請負うのが、彼女たちの主たる仕事内容である。
黒田さんと中田さんは、掛け値なしで、おべんちゃらではなく、立ち居振る舞いも、容姿も美しい女性たちであった。まずは、ブログに率直に、このように書いてしまうことが、「セクハラ発言」にあたるのだろうが(笑)。
CIS認定協会の評価の仕組みと、研修システムや検定試験の導入について、実情を伺っているときのことである。なんかのきっかけで、話題が、「女性の容姿をたずねる瞬間」のことになった。たぶん、部下の女性を褒めることが会話の内容だったのではなかったかと思う。
ふたりから説明を聞いていたわたしが、「(でも、)おふたりともお美しいですよね」と正直に言った。本当のこと(ほめたつもり)なのだが、その意味するところは、容姿のことだけを指してそういったつもりではなかった。
「言葉の美しさ、対応の見事さ」という側面からも、初対面のわたしに対する、ふたりの受け応えが群を抜いていたからである。「いやいや、そんなことは、、」と、わたしの直球は難なくかわされた感じだった。
面談の時間は、40~50分を予定していた。40分を過ぎて、つぎのアポイントの時間が迫ってきていた。実は、解決すべき緊急の課題がひとつ、電話とメールから降ってわいていた。
目の前で、その雰囲気に察知した黒田さんと中田さんは、さっと席を立とうとした。離室してもらうと、わたしも助かるのだ。これは、「(相手の立場を)感知する能力」=「察する力」である。さすが「サービスマイスター」の講師たちである。
申し訳なく思ったので、わたしは、6階のエレベーターの前まで、ふたりを見送りに出た。
6階のドアの扉を開けているわたしの姿を見て、黒田さんが、「先生、ブルーのジーンズがよくお似合いですね」と。中田さんもそれに応じて、たたみかけてきた。「すっごく、おしゃれですよね」。黒田さんの方を見て、同意の相槌をしてうなづいた。美しいおじぎである。
美しい女性たちから、ほめられたわたしは、「気が付きましたか? これは、リーバイスの501ジーンズなんですよ」と、うんちくを垂れようとしていた。ご存知だろうと思うが、ボタンが前開きである。価格は、たしか12000円。guの10倍の値段である。
この時点で彼女たちには、完全に「ほめ負けて」いたのである。
さきほど説明を受けていたサービス研修のテキストには、「相手の身につけているものをほめる」ことで(話の)きっかけを作る」とあった。テキストの定石通りに、わたしをほめていたのである。
わたしはそのことに気がついてはいたのだが、それでも、直球(ダイレクトに本人の容姿をほめる)に対して、カーブ(間接的に身につけているものをほめる)を投げられた時点で負けである。わかっているけれど、気分が悪いわけはない。
その後の夕方の2時間、わたしはとても上機嫌だったはずである。