ベトナム視察旅行日記#4: 「チーム・ジャパン」(東南アジア進出のためのセット理論) 矢崎総業と清和海運

 昨日、ホーチミンから成田空港に帰国した。夜間フライトなのでぐっすり眠れた。すぐに仕事をしているから、働きすぎになる。最終日は、自動車のワイヤーハーネス(自動車配線組部品)の世界シェア30%を持つ矢崎総業(本社:静岡県)と清和海運を訪問した。



 矢崎総業ベトナム(YEV)は、1995年にベトナム(ホーチミンとハノイ)に進出している。日本の製造業としては、非常に早期の独資での工場建設だった。
 現在、ベトナムには4つの工場で操業をしている。安価で良質な労働力に恵まれたおかげで、工場の投資効率が高い。また、現地でのQC活動に成功したことで、品質と生産性の向上が同時に達成できている。

 YEVがベトナムに進出した1995年は、中国の改革開放から10年である。ワイヤーハーネス(自動車用配線組部品)は、自動化が困難な労働集約的な製品である。国際分業が進んでいる中で、チャイナ+1としてのベトナムが選択された。当時のインフラの脆弱さを考えると、実に思い切った投資だった言える。
 ベトナム工場のワイヤーハーネス(配線組部品)は、トヨタとマツダの専用部品である。完成した部品は、ハノイ港から日本だけでなく、北米と台湾へも送られている。ベトナムは、日本向けだけを扱っている。ただし、インド向けなどは、現地の合弁会社で作っている。
 矢崎総業は、全世界のワイヤーハーネスの30%のシェアを持っている。世界10か国以上で、ワイヤーハーネスに特化して部品生産をしている。タイの洪水や日本の大震災を例にとるまでもなく、複数の国で複数の部品を作っているのは、リスク管理のためである。

 従業員の90%は、若い女性である(平均年齢26歳、勤続5年)。4つの工場に、5千人が働いている(2シフト制:6時~14時と14時20分~22時半)。作業そのものは、細かな仕事ではあるが単純作業ではある。
 約20人がチームを組んでいる。女工さんたちが、電線と端子を配線板上でつないで、ビニールテープで巻いて最後にケースをかぶせる。一つのラインの長さは、約30M。このチームが体育館のような工場に広がっている。

 ベトナムで矢崎総業が海外事業展開で成功しているは、3つの要因に支えられている。
 第一には、良質で安価な労働力を確保するために、社会活動に投資してきたことである。従業員のモチベーション向上のために、サッカー大会やカラオケ大会を催すだけでなく、託児所を完備したり、産休制度(4か月、復帰後も土曜日休み)を設けたりしている。地域に対する貢献も盛んで、身体障害者を積極的に雇用したり、地域の学校に書籍を寄付している。
 二番目は、現地の日本企業(清和運輸ベトナム)との連携がうまくいっていることである。当日(5月22日)は、ホーチミン市郊外で、同社の物流倉庫会社を見学させていただいた。YEVの部品荷受と工場までの輸送管理を引き受けている。
 最後に、ベトナムという国が、矢崎総業のグローバルな戦略のなかに、地政学的にうまく組み込まれている点である。進出当初の国情を勘案すれば、インフラ面でのハンディキャップが、思いのほかに大きかったはずである。それを克服してきた企業家精神に感服である。日本企業(チーム・ジャパン)の底力を垣間見た気がした。

 「チーム・ジャパン」としての成果は、ハノイでも見ることができた。ヤマハとサクラ工業のセットである。この先も、コンビニやファッション衣料チェーン、百貨店や総合スーパーのベトナム進出で、同様な成功体験を期待したい。
 なお、ファミリーマートがすでに、ホーチミン市には20軒、出店していた。店頭価格を調べたら、スーパーの1割増しであった。来店客数は、一日2千人(推定)。買上げは2点で、客単価は30~40円(飲料が15~20円、推定)。日販が8万円。
 人気店舗なので、出店さえできれば、一挙に普及が進みそうだ。しかし、現地の見えない規制があるらしく、現地の伊藤忠商事スタッフは、急激にビジネスが拡大できないことを、実に歯がゆく感じているものと推測できる。