ごく少額だが、代表的な日本企業の株式を保有している。経済動向や国内産業の盛衰を見るためにはじめた株式投資である。長期のパフォーマンスは、ひとに自慢できるほどではない。しかし、全くだめというわけでもない(笑い)。銀行利息を受け取るよりはましなくらい。
もう時効だから白状してしまうが、インサイダーまがいの取引をして、いまごろ大金持ちなっていたかもしれない。誘惑に負けそうになる瞬間が、過去に何度もあった。しかし、どうにか自制心が働いて、いまに至っている。
だから、世の中によくある「インサーダー取引者」の心理状態は、手に取るようにわかる。わたしもけっこう欲の深い人間である。この闇の世界では、うまくやれば(見つからなけば)、数千万円から億単位の利益が、個人でもほんの瞬間で獲得できてしまうのである。
いくつかの上場会社の顧問をしてきた。いまでもそうだが、「某社の株式が上昇しそうだ」という内部情報が自然に入ってくる。オリンパス事件ほど危なくはないが、経営者たちとの会話の中から、M&A(企業買収)や企業間の提携話など、機密事項から株価の変動は類推ができてしまう。
とはいえ、どこかの官僚がやったように、妻や子供の名義で株式を購入したことはない。少額の利得のために大切な名誉を失ってしまった役人は、本当におバカさんである。発覚してしまえば、大学の先生がお縄頂戴である。大学にも家族にも、ひどく恰好が悪い話になる。
さて、そうした株取引の実践は別として、数年前から、標記の4社の株式に注目している。ソニー、パナソニック、ユニクロ、ソフトバンクである。いつも4社の株価の変動、とくに時価総額をチェックしている。株式の時価総額=市場価値が、会社の社会的な評価だと思うからである。
ソニーとパナソニックは、同じ業種にありながら対象的な企業である。ソニーとユニクロとソフトバンクの比較には、ふたつの意味がある。ひとつは、日本のトップ企業の市場評価(グローバルな!評価である)をみること。もうひとつは、経営者の手腕がどのように市場から評価を受けているかを見るためである。皆さんは、ご存じだろうか? 11月5日現在の4社の株式時価総額を、、、
ソニー 1兆4065億円 (終値1400円)
パナソニック 1兆7980億円 ( 733円)
ユニクロ 1兆4118億円 ( 13130円)
ソフトバンク 2兆8568億円 ( 2579円)
注目してほしいのは、ユニクロの方がソニーより株式の時価総額が高いことである。ソニーとユニクロの時価総額が逆転したのは、ごく最近のことである。ユニクロの評価が上昇したというよりは、ソニー(パナソニック)の企業価値が落ちてしまったからである。
この長期トレンドは、リーマンショックに端を発している。かつては、家電2社の時価総額は、ユニクロの3~4倍はあった(3年前)。10年前は、10倍の開きがあったはずである。
この2年半で、両社の企業評価額は、約3分の一になっている(パナソニックは、2100円→700円、ソニー4800円→1400円)。それに対して、残り二社(ユニクロ、ソフトバンク)は、企業の市場評価が上がっている。ファーストリテイリングは、10000円が13000円に、ソフトバンクは、紆余曲折はあったが、2000円から2400円に株価が上昇している。
ソニーとファーストリテイリングの時価総額がクロスした「交差点」(ユニクロス)は、先月末に起こったと記憶している。詳しく分析してはいないが、両社の企業価値の逆転現象は、日本の産業構造の変化を象徴する出来事だった。このことに気が付いている人は少数だろう。そして、パナソニックとのユニクロスも、ごく近々に起こるとわたしは予想している。
なぜなのだろうか? それは、アジアへと向かう経営者の姿勢が、根本的にちがうからである。ソニーとパナソニックは、後ろ向きの改革を行っている。液晶テレビの工場売却(パナソニック)、エリクソンとの合弁の解消(ソ ニー)。
驚いたのは、「マス(量)は狙わない。利益を取りに行く」(パナソニック大坪社長)。大きなど真ん中の市場を放棄している。アジアで勃興している大きな市場は、利益が生み出せないから狙わないと匙を投げているのである。悲しいことだ。韓国、台湾、中国企業に対する敗北宣言である。
グローバル市場においては、ソニーにせよパナソニックにせよ、全体の事業展開を誰が指揮しているのかが不明である。株式時価評価の低落は、そうした事象を評価を反映したものであろう。船頭がいない船がどこに向かうのか? この先もきびしい展開になりそうだ。
それとは対照的に、ソフトバンクとユニクロは、最終的な結果は不明だが、基本戦略ははっきりしている。大言壮語といわれようが、打者(新興市場)に真ん中にストレートを投げ込もうとしている。基本的に、「攻めの経営」である。守りの経営の二社とは、逆風に向かう姿勢が対極的である。
どのようなきびしい状況にあっても、常に攻め続ける姿勢が、グローバルにも評価されているのである。官僚組織に変じてしまった大企業には未来がない。