4年前に大学院を卒業した社会人学生に、新妻さんという女性がいる。百貨店関係の教育研修コンサルタントをしている。ご実家は、福島県いわき市で温泉宿を経営している。わたしの知り合いのなかでは、今回の大震災でもっとも経済的に大きな打撃を受けたケースである。
震災後に何度となく、彼女とメールや電話をしている。ご実家の旅館は、自宅の建物が被災されただけではない。温泉の営業そのものできなくなっている。わたしたちの間で交わされた、一昨日のやりとりを紹介したい。現地の様子がわかっていただけると思う。
その前日に、女性向けファッション衣料品の「ハニーズ」(本社:いわき市)の社長室(村上さん)から、「今回、担当が交代します」のメールをいただいていた。いわき市のつながりで、新妻さんのことを思い出した。
ハニーズは、いわき市に本社がある。何度が学生たちと現地を訪問した。全国に約800店ある店舗に荷物を送ている、物流センターが本社の近くにあった。やはり大変な状態にあるらしい。毎週末には、車や電車でいわきに戻っているという新妻さんから、そのように聞いていた。
昨日のメールである。
(小川より)新妻さんへ
>お元気ですか?その後、ご実家がどうなったのか、心配しております。いわきのハニーズは、担当が代わりました。
(新妻さんから)
>ご心配頂きありがとうございます。私は週末いわきに通っています。日常は戻って来ましたが、温泉街は工事関係者の宿泊施設となり、素泊まり3000円です。海の幸が全滅で雲丹アワビあんこうなど水産業は全滅で原発もあり、岩手宮城に比べ、全てが遅れ、今後は見えません。あぁ~~~です。
(小川より)
>こんばんは。いわきは、気の毒ですね。でも、工事関係者がいるだけでも。まだ生活がなりたちま
す。しかし、素泊まり3千円はひどいなあ。新妻さんの旅館はやはり閉館?
海の幸が戻るまでは、あと3~5年はかかりますね。原発は5~10年はあのまま。ただし、爆発しないなら、放射能汚染からは3年で回復とみます。わたしたちが思う以上に自然は強いです!太平洋は怖い津波もありますが、なんでも押し流す海流があります。
そんなものでは、ありませんかね。
(新妻さんから)
>(温泉宿の)建物の半分が使えるので宿泊施設として家族とパートで対応しています。旅館として今後成り立つかは~かなり難しいと思います。ハワイアンズの再開の見通しも立ちませんし、失業者で溢れています。福島県の温泉旅館の廃業は増えるでしょう。
このやりとりの補足を若干する。新妻さんとは、何度も話をしている。問題なのは、建物の被災ではない。温泉宿として、「料理」が出せないのである。
いわき(湯本)の魅力は、温泉にプラスして、海の幸や山の幸である。わたしたち(お客さん)は、温泉に浸かって、あんこう鍋やウニ、山菜や山ウドを食べに行くのである。天然資源が売りなのである。
それが、津波と原発で海が荒れて、アンコウもウニも採れなくなった。山菜は放射能汚染で怖くて出せない(本当は、それほどの汚染ではないらしい)。
温泉として、魅力的な食事が出せないのである。東北の温泉産業は、自然によって成り立っていたことを知って、わたしは愕然としてしまった。そうか、温泉街は海と山に育てられていたのか。考えてみれば当たり前なのだが、失ってみてはじめてそのありがたさに気がつく。
現政権を中心に、東北の復興に支援にあたっては、三陸海岸を国立自然公園にするという案が出されている。地元のサービス産業と雇用を考えると、問題はそんな単純なものではない。画に書いたようなきれいなプランを作っても、問題は解決はしない。きれいごとではすまないのである。