2009年8月に、渡邊美樹著『戦う組織の作り方』を書評したことがある。アマゾンの書評では★5の本だった。おもしろい本だったが、わたしの評価マークは★3つだった。経営者の渡邊美樹が年に3、4冊の本を出すことが理解できなかった。バラティ番組などにも顔を出すようになっていたからである。
どうしたのかな? 当時はそう思っていた。しかし、今年の冬に、そのなぞは解けた。社長業から政治の世界に転身しようとしていたからである。その気持ちは、ずいぶんと早い時期からだったことが、のちにわかった。
そんなわけで、当時の評価は、いまや「★5つ」に変更しないといけない。わたしの側は単に誤解をしていたわけで、ワタミ渡邊会長からすると名誉回復である。
いま、『ブランド戦略の実際』(日経文庫)を改訂しているが、第6章の扉の事例を、「ソニー」から「ワタミ」に変更しようと思っている。 そのようにすることを決めている。わたみの広報部には、すでにアポイントをとって、5月20日午前10時に、本社(大田区大鳥居)に伺うことになっている。
初版でも、ブランドの展開において、ソニーの事業編成が変わっていく様を記述した。事業とブランドの変遷を関連付けたのが、第6章である。
事前のヒアリングによると、ワタミの事業は、「(現在弊社は、)外食・介護・高齢者向け宅配を柱として、農業・マーチャンダイジング・環境を合わせた3つの事業と3つの活動(環境活動、発展途上国の教育支援、若者の事業支援)を積極展開しています」というお話だった。
「青年社長」(高杉良作の小説)だった渡邊社長(当時)に、最初にお会いした1990年代後半、ワタミはまだ「ワタミフードサービス」という社名だった。ようやく、「TGIフライデー」(米国のレストランチェーンのFC事業)など、多角化を始めたばかりだった。
それが、あれよあれよという間に、6つの事業を持つ多角化企業に変わっている。農業も黒字化しているはずだし、その他の事業への参入で収益率も高くなっている。
もし、あのまま居酒屋一本で来ていれば、吉野家のように苦悶していたかもしれない。
渡邊美樹自身は、残念ながら、先の東京都知事選挙では、得票第3位で落選した。当選した4選知事の石原慎太郎はもとより、東国原元宮崎県知事より得票率が下だった。そのことは、応援していたわたしから見て、不可解であり驚きでもあった。
民主党の推薦がよくなかったのかもしれないが、それは結果論であろう。たくさんの本(たぶん20冊以上)を出版し、バラエティ番組のコメンテーターを務めてあれだけ露出を増やしたとしても、実際の票には結びつかなかったわけである。
青年社長も、いまや年齢が50歳を超えている。つぎは、衆院選に打って出るのだろうか。渡邊美樹は、そもそも挫折が多い経営者である。