「会社が生きるも死ぬもあなた次第」。怖い特集テーマである。坂本孝社長の秘書、岩崎なおみさんから、メールが来た。ひさしぶりのコンタクトである。インタビュー記事は、「性善説と性悪説の間を揺れ動き、ようやく自分の不徳に気付いた」とある。
忘れもしない。3年前(2007年)の5月のことだった。突然、坂本社長(秘書の岩崎さん)からメールが入った。「「週刊文春」に、架空売上とM社とのリベート処理について、坂本への内部告発の記事が掲載されます。事実関係は、、、」とあった。
その後、社内にブックオフの中に、告発事件についての調査委員会が出来た。最終的に、坂本さんは、ブックオフの会長を退任する。その後に坂本さんに続いて辞めることになるが、複数の経営幹部からの裏切りもあった。その何人かには、わたしも実際に会って会食をしている。わたしは、その一部始終を見ていた。
そのころのブックオフの社内の雰囲気(事件が起こる2年前)については、個人HP に書いた「経営計画発表会」への参加感想文が、きっと参考になるだろう。あの雰囲気は、どこか異常だった。その同じ週には、先月亡くなった「ウエザーニューズ社」の石橋社長のパーティーにも参加している。
当時のHPの記事を、そのま引用をしてみる。(2005.06.18 Saturday)
月曜日(13日)は、横浜ロイヤルパークホテルで開かれた「ブックオフコーポレーション(株)」(坂本孝社長)の経営計画発表会。水曜日(15日)は、幕張プリンスホテルで開かれた「(株)ウエザーニューズ」(石橋博良会長&社長)の「トランスメディア放送局WITH」発表記念パーティーに参加させていただいた。
社風のちがいだと思っていたが、事実は、「熱狂中の過熱」だったのだ。このブログを見ている社長さんがいるとしたら、社内の体育祭・文化祭的な盛り上がりは、実は赤信号である。そんなときに、社長は本心では醒めていなければならないのだ。
坂本さんの慢心も、従業員への過剰な信頼感から来ている(ように、わたしには感られた)。性善説に立脚しているが、どうも危うく見えた。良寛和尚は、宗教家だからよいが、坂本さんは経営者である。どこか危うそうだった。
その裏返しであった裏切りも、そうした信頼に根があったように思う。「利他を教える」稲盛教信者の坂本さんではあっても、現実は、そう生やさしくはなかったはずだ。
おそらくは、脇が甘くなっていたのだ。後に述べるように、ビジネスモデルの頑健性(強さ)に、それは由来している。たぶん、いまいちばん類似している事例は、スティーブ・ジョブズ社長のアップル社である。
ビジネスモデルが良すぎる場合は何が起こるか? (1)気前が良くなりすぎるか、(2)ますますグリーディー(がつがつ)するか、のどちらかである。ブックオフを率いていた坂本さんの場合は、前者だったよう思える。そこに落とし穴があった。
わたしも痛いほど、仲間たちからの「心の離反」を経験してきた。成功しているときには、まったく気がつかないものだ。そのひとたちが、仕事をする上でわたしが自分にとって有利だからそばにいるのか。それとも、本心から理念を共有するので、一緒に行動しているのか。
その真実を知れたことは、本当は幸せなことなのだ。坂本さんには、そう言いたかった。あのころ、岩崎さんが罵っていた元経営側近たちは、本音では、坂本さんを尊敬していなかったのですよと。「告発事件のおかげで、本当のことが知れてよかったではないですか」。
いまだから言えるが、今回のインタビューの中でご本人も述べているように、周囲の目から見ても、坂本さんには「慢心」があったように見受けられた。ひとごとではない。
ある程度の成功を体験している人間には、かならず起こるものである。それに早く気がついて、修正することができるかどうかである。慢心は、どこでも誰にでも起こる。それだけのことである。
ブックオフは、典型的なプルーオーシャン企業である。だんとつのシェアで、敵がいるとすれば、、、それが内部顧客(従業員)だったのだ。潜在的には、FCオーナー経営者だったはずなのだが、実際には、週刊誌ネタになる内部告発が引き金になった。
だから、ふつうの社長(リクルート出身の若者?)が後継しても、いまだに業界ナンバーワンである。業績も上昇基調にある。「(経営からは引いたが、)自分の作品集」がいまだに光り輝いているのを見るのは、坂本社長としては、幸せでもあり、複雑な気持ちでもあるだろう。
業界シェアトップの座を、どこかに奪われることも、当面はなさそうだ。リサイクル全盛の経営環境も悪くはない。ブックオフの事業基盤も、そして業態も拡張している。
時間はすぎていく。坂本さんは、いまや飲食チェーンのオーナーである。FCで育ったひとに仕事を提供してやりたい。それが、残された仕事だと。最後の夢を実現するための会社が、「バリュークリエイト」である。昨年は、坂本社長が経営している「お好み焼きや」に招待されたものだ。ご本人は、元気を取り戻しているように見える。
それでも、三年経過しても、気持ちは複雑だろうな。身内に裏切られた傷は、死ぬまで癒えないだろう。その思いを一生引きずって、坂本さんはきっと生きていくことになる。
自らの「不徳のいたすところ」と、酒を飲みながら。それもよいが、坂本さん!飲みすぎは禁物ですよ。同じころに元気だった石橋さんは、先月、病気で他界していますからね。