「JFMA南米ツアーから: 5年後に世界の花産業の地図が塗り替わる」

「南米コロンビア訪問記録」のメモを文章化してものを、『農耕と園芸』(2008年11月号)に掲載することにした。以下は、そのドラフトである。短いバージョンは、10月25日発行の「JFMAニューズ」にも掲載してある。内容をもっと詳しく知りたいかたは、今月30日から幕張メッセで開催される「IFEX2008」の専門セミナーに来場ください。3つのセッションで、わたしが司会と講師を担当します。(本HP、「講演スケジュール」をクリックしてください)


何年かに一度、海外の取材や調査で衝撃を受けることがある。過去を振り返ってみると、1980年代の後半に訪問したオランダのバケツ流通の現場、1990年代の終わりに経験したイギリスのスーパーマーケット(テスコ)の店頭と花束加工場(ズベッツルーツ)の大変革。そして、数年前に見たマレーシアのスプレイマム産地(キャメロンハイランド)などである。今回(9月下旬の10日間)のJFMA南米ツアーも、これまでに負けず劣らずインパクトの大きな旅行だった。
 訪問先は、エクアドル、コロンビア、米国(ヒューストン)である。コロンビアは12年ぶりで、エクアドルははじめてだった。コロンビア滞在中の2日間で、首都ボゴタ周辺の農場と花束加工場を4箇所ほど視察した。初日の夕方は、「コロンビア花き輸出協会」で大いなる歓待を受けた。花き輸出協会は大きく発展していた。今回、視察してきた農場と加工場の様子を簡単に紹介する。
 コロンビア訪問の全体的な印象である。5年くらい先に、オランダとコロンビアの花産業の国際的な地位が接近してくることが予想される。日本は消費地としても生産地としても、世界第2位の規模ではあるが、花の生産基地として、コロンビアの発展とオランダの衰退を見たとき、わが国も花産業の再編成を真剣に考えなければならない。現状では、明確な羅針盤はないが、2008年内に、南米(今回)、ヨーロッパ(春先4月)、アジア(今年の北京の中国花き展示会)の訪問後に感じたことが4つある。
 日本の花産業の立場は、
① 輸入が増えることで調達・物流・取引ネットワークを再編成することになる。
② 海外への現地花束加工が増える(コロンビアはその可能性あり)。
③ 国内生産コストの上昇への対応が急務である。
④ 育種と生産技術の見直しが必須である。
 そのように感じた理由を、とくに今回訪問した「コロンビアの花産業」を概観して説明してみる。
 コロンビア輸出協会のデータ(2007年)では、コロンビアの切花輸出額は1141百万ドル(約1200億円)、世界第2位である。その70%は米国向けであるが、その他(アジア、欧州)向けが急速に増えている。米国の景気低迷の影響ではあるが、全体に産業としては勢いを感じる。日本向けは、2007年で23百万ドル(25億円)、2006年は17百万ドル(約18億円)であった。対前年比は20%で伸びている。コロンビアにとって、日本は有望な市戦略市場とみなされている。
 コロンビア国内では、3つの「多様化」が進行している。
① 作物の多様化(カーネーション、バラ一辺倒から、カスミソウ、リモニウム、スターチス、ひまわりなどに、栽培品目の幅が広がっている。
② 加工の多様化(マイアミの花束加工業が、コロンビア国内にシフト)。
③ 販売先の多様化(米国一辺倒から、欧州やアジアに仕向け地が多様化しつつある。
 これだけの多様性をもった花の国は、いままではオランダだった。ところが、コロンビアが、生産面だけでなく、花束加工や生産技術でも突出した存在になる可能性が生まれている。当初、コロンビアの花産業は、キク、バラ、カーネーションで米国西海岸の日系花農家を駆逐したところから始まった。しかし、いまやコロンビアの強みはそれだけではない。
 コロンビアの優位性は、①コストの優位性:一人当たりGDPが年間4000ドル(約45万円)で、最低賃金が月259ドル(約2万8千円)。②生産現場と加工場がセットになっている:栽培温室と加工場の間で移動輸送コストがかからない。③ブーケの加工賃が安い:労賃が一日20ドルで、一束あたりの加工賃は5セント、つまりは5円です。同様に、栽培の直接人件費も一束わずか5円。500円のブーケで、労務費は2%以下になります。これでは、欧州勢でも太刀打ちできない。
 われわれは、国内のコスト問題と市場統合に目を奪われがちであるが、対岸の火の手にも注意を払うべきだろう。世界は動いている。IFEX2008(10月30日~11月1日)では、コロンビア、ケニアなど、海外勢の動きにも注視してみただろうか?