姪の近藤恵実子が、小学館の「少女コミック」編集部で、漫画家さんの原稿取りをやれている。入社2年目の駆け出し編集者である。わたしのような遅筆な作家も少なくないだろうから、大いに困ることもあるだろう(笑い)。
並みいる同期新人を押しのけて、晴れて第一希望の”少コミ編集部”に配属されたまではよかったが、「帰りが遅くてまともに眠る時間がない」とはわが実妹・近藤道子の嘆きである。早稲田の文学部(哲学科!)在学中に、「毎日新聞」の学生特派員をやっていて、わたしのゼミの記事(青山フラワーマーケットの調査)を書いたりなどしていた。
その成果があればこそ、元漫画おたく少女が、いま小学館で好きな漫画編集の仕事に取り組めるようになったのだぞ! そう思っていたが、今度は「姪御の恩返し」のおかげで、一橋にある小学館ビルで”Oggi”(オッジ)の取材をさせてもらうことになった。ありがとう。取材相手先は、95年に上海で合弁事業を立ち上げた、マルチメディア局の鈴木俊彦専任プロデューサーである。鈴木氏は、現地合弁企業である子会社「上海碧日諮詢事業有限公司」の常務菫事でもある。
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事の発端は、昨年(2002年)の11月にさかのぼる。上海の取材先で、本屋に入ってたら、”今日風采”という雑誌を見つけた。表紙のモデルが誰だったかは忘れたが彼女は日本人らしい。たぶん、長距離ランナーの長谷川理恵?よく見ると、中国語”今日風采”の裏ローマ字で、”Oggi”とはっきり見える。
開いてみれば、日本のファッション雑誌を翻訳して発売している。簡略字ではない日本語が、誌面のあちこちに散らばっている。表紙のモデルだけでなく、日本製のファッションを身にまとい、ちょいと挑発的でセクシーなポーズをとっているのは明らかに日本人である。ファッションにあまり縁がないわたしでも、中国人は化粧の仕方がちがうのでそれとなくわかる。なんとなくだが、靴や毛皮も日本っぽいのである。発行元は「上海人民美術出版」とある。
上海の取材先に同行してくれていた張志豪さん(キリンビール、アグリバイオカンパニー上海駐在所長)に聞くと、いま上海でいちばんに売れているファッション誌だという。日本の雑誌社「小学館」が発行している”Oggi”の中国版である。そういえば、わが姪が今年入社した雑誌社は、小学館ではなかったか? しばらく機会がなかったのそのままに放っておいたが、「中国へのブランド移転物語」の連載がネタ切れになって、そろそろ在庫を補充する必要があった。そのときに思い出したのが、姪御の”えみちゃん”であった。
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日曜日に上海に出張予定の鈴木さんは、忙しそうである。話している途中で、台湾から携帯に電話がかかってくる。上海でもローミングができる携帯らしい。水曜日の夜に台湾人と上海で打ち合わせをするという。いまや台北(台湾人)と上海(中国人)の間で、意識の面では国境がなくなっているのだ。現場感覚でそれがよくわかる。
今日風采のお話には、およそ70分の時間をいただいた。本日の約束が一時間だったから。1995年の合弁会社は、漫画の海賊版対策のために設立した会社であった。それが、「上海人民美術出版」という雑誌社と組んで、”Oggi”の中国版を出したのが2001年11月1日である。詳しい話は、次号のチェーンストア連載で紹介するが、HPではおもしろいエピソードをひとつだけ紹介する。
なんと中国の雑誌は、基本は横書き左開きであった。1949年の解放後、ロシア語の影響でそうなったのか、漢字で縦書きだったのが横書きに変わった。同時に、識字率を高めるという名目で、いまの中国式の”簡体字”が発明された。そうなると、左から文字を読むようになるから、当然のことながら、雑誌の編集は左開きとなる(左手でページをめくる感覚です)。
2001年に「今日風采」を出版編集に当たって、右開きにすべきか左開きにすべきかについて大談論争が繰り広げられた。最後は、たぶん鈴木さん達の主張で、日本と同じ縦書きの右開き編集に決まった。そう主張した理由は、日本の写真やモデルさんを使うとなると、右開きにしてキャプションの漢字を縦書きにしたほうが自然だからである。左開きにするためには、写真をポジをひっくり返すようにして、裏返しにして使わなければならない。モデルさんの目線が反対方向を向くからである。
雑誌の翻訳は、文化の移転過程である。なるべく日本的なテーストを保持したいと考えると、そして、編集に余計な労力をかけないためには、右開きにしたほうがよい。わたしが常々主張している「標準化路線」を鈴木さんも主張したわけである。
結果としては、どうやら今日風采の成功は、日本のモデルさんとブランド品をそのまま掲載しながら、右開きの日本的な感覚(「平仮名感覚」と私が最近読んでいる方式)を伝えようとしたところにあったのではないか?(明後日に続く)