(その119)「マジックアワー、日本海に落ちる夕陽」『北羽新報』(2026年8月24日号)

連載(北羽新報)

 ほぼ隔日のペースで、インスタグラムに写真を投稿しています。お気に入りは、太陽が地平線の下に隠れた後で、残照が漆黒の闇に吸い込まれていく一瞬の写真です。日の入り前後のこの時間帯は、「マジックアワー」と呼ばれています。
 調べてみると、マジックアワーは、写真撮影の用語でした。カメラ撮影の入門書では、「アマチュアでもキレイに写真が撮れる瞬間」と解説されています。夕刻だけの現象と思いきや、日の出前後の時間帯もマジックアワーと呼ぶようです。マジックアワーには、「ゴールデンアワー」と「ブルーアワー」と呼ばれる2つの時間帯があります。
 厳密な定義では、マジックアワーは、太陽の位置が+6度から-6度の角度にある時間帯で、日の出と日の入りの前後40分間です。目安としては、日没前(日の出後)の40分がゴールデンアワーで、日没後(日の出前)の40分がブルーアワーになります。この時間帯は、光の加減で空の色が柔らかくなります。
 
 スマートフォンをお使いの方はご存知かと思いますが、その昔に撮影した大量の写真の中から、スマホに内蔵されているAIが、自分勝手にステキな写真を選んできて、「写真集」をポップアップしてくれます。例えば、「滝」とか「お祭り」などのテーマで、スマホに内蔵されたAIがアルバムを編集してくれるのです。
 ここまで書いてきて、わたしは夕焼けやマジックアワーの写真をたくさん撮っていることに気がつきました。ジョギングの途中や旅行に出かけたとき、海岸線や田んぼ道、森の際を歩きながら、かなりの頻度で夕焼けの写真を撮っています。これまでで最も印象深かった写真は、山形県鶴岡市の老舗旅館「亀や」の前で撮影した「日本海のマジックアワー」でした。最上階の部屋の中から撮った室内のスツールが、残照の海を背景に輝いて見える一葉の写真で、いまでもスマホとPCの背景写真に設定しています。
 
 ところで、今月の初めにクロスカントリーの大会に参加するため、岩手県八幡平市に旅行で出かけました。前日に盛岡でレンタカーを借りたので、走り終わったその足で男鹿半島の入道崎まで車を走らせました。5年ほど前に感動した「入道崎に落ちていく夕陽とマジックアワー」をふたたび観てみたいと思ったからです。
 8月11日の夕刻は、台風15号が逆走して、史上初めて茨城県に上陸した日でした。台風が南に大きく逸れたおかげで、男鹿半島で美しい落日が見られました。県外から来たらしい観光客のカップルや親子連れが、台風一過の灯台の芝生に座ってマジックアワーが到来するのを待っていました。しかし、この感動的な風景を観ることができるのは、日本海側の海岸線に住んでいる人たちの特権なのです。秋田県人にとって当たり前の「海に沈んでいく夕陽」は、太平洋側に住んでいる人にとっては普通のことではないのです。
 五能線の「リゾートしらかみ」や「不老不死温泉」(青森県深浦町)が人気なのは、海岸線を走る列車の車窓や露天風呂の縁から、日本海に沈んでいく夕陽を眺めることができるからです。男鹿半島にある日本海を臨む宿が、夏のシーズンに一部屋10万円を超える宿代がチャージできるのは、穏やかな夏の日に日本海に沈んで行く夕陽が見られるからです。太平洋側では、夕陽は山の際に沈んでいくものなのでした。

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