卸売市場は、10年後に生き残れるだろうか?

 新年に入って、都内の卸売市場2か所(大田市場、豊洲市場)をインタビューで訪問した。今月は、「2024年問題」(トラックドライバーの長時間労働規制)」に関連して、関西にある花の物流センター(FLS)を視察する機会を得た。また、3か月間の研修を請け負ったJA全農子会社(青果センター)では、青果流通の実情と課題を知ることになった。

 

 3つの流通施設の訪問で、卸売市場の存続について、将来的に大きな不安を感じることが多かった。いまのままでは、日本から卸市場が消えてしまうのではないのか?卸売市場の社会的な役割は終わってしまったのではないか?卸市場の課題は山積みだ。

 以下は、3つのタイプの組織を訪問したときの感想である。

 

1.上流(生産者)と下流(小売り)の変化

 農産物の供給者(農家)の側で、急速に高齢化が進んでいる。

 2019年で、基幹となる農家の平均年齢は66.8歳。70歳以上が全体の42.0%(59万人)で、60歳以上では80.3%(112.7万人)を占めている。7年後(2030年)には、新規に就農する若者が少ないので、農家人口はいまの3~4割程度に減少すると予想されている。他方で、大規模な農業生産法人は増加している。

 一方で、販売先の川下の小売業は大規模になり、チェーン化が進んでいる。売上高50億円以上の「ビッグストア」(JRCの定義)が、全小売売上高の8割以上を占めている。他方で、零細な小売店やサービス業(飲食店)は、大幅に減少している。コロナ禍がその傾向を加速している。

 

2.川中(卸市場)の存在意義

 大正時代に生まれた農産物流通の仕組みで、最大の革新は卸売市場の誕生だった。日本人の消費生活は、都市部に新たに設置され公的な卸売市場の機能によって支えられていた。小規模零細な生産者(+組織化された農業協同組合)と、同じく多数の零細な小売店を仲介する役割として卸会社組織が効率よく機能した。誕生の時代的な背景や戦後の高度成長もあって、品揃え機能、情報提供機能、決済機能、物流機能、品質評価機能がすべて教科書通りに働くことになった。

 ところが、データで示したように、上流でも下流でも、量的・構造的な変化が起こっている。大規模化した農業生産法人にとって、農産物の売り先として、卸売市場は販売先の一つの選択でしかない。ファイナンスと物流の機能は残ってはいるが、法人組織や大規模農家は、小売業と直接取引を始めている。中間マージンを取られない分、農産物を高価格で安定供給できる。結果として、収益が増えるからだ。

 チェーン小売業にとって事情は同じである。農業生産法人や大規模農家と直接取引ができれば、物流のハブとしての役割を除けば、中間の卸売市場はほぼ利用する意味がない。どちらにしても、日本独自のシステムである卸売市場は、その役割を終えようとしているように見える。

 

3.卸売市場の経営問題

 卸会社は、「荷受け」とも呼ばれている。この言葉が象徴するように、農家が生産した農産物を卸会社が全量受け取り、セリにかける。あるいは、オークションで値付けする。農家の側から見れば、自分たちが作った農産物は卸会社が「全量」を引き受けてくれる。そのうえで、3日以内に農産物は現金化できる安心感があった。しかし、農産物の値段や販売先の情報は、原則として農家は入手ができていない。

 教科書に書かれている「情報提供機能」や「品質評価機能」は、実はブラックボックスのままである。法人化して近代的な経営を志向する農家にとって、卸市場は必ずしも自分たちにとって必要不可欠な組織体ではない。代替的な調達組織は、その外側に存在している。いまや農家自身が、あるいは商社や大規模小売チェーンが卸の機能の一部を代替している。

 

4.関西ハブセンターの事例

 一つの事例が、先週訪問した三和陸運の「花の幹線物流システム」(FLS:Flower Logistic System)である。

 訪問先は、中継地点である「関西ハブセンター」だった。機能的には、九州(福岡)と関西(京都)を、大型トラックやフェリーの定期便で結ぼうとする構想である。社名のFLSは、わたしの命名によるである。FLSの基本概念は、Fresh、Low-cost、Speedyの頭文字でもある。

 FLSは、現状の花の卸売市場が単独では実現できない3つの機能(鮮度良く、安く、速く、運ぶ)を、一挙に実現しようとして設立された。本来ならば、卸売市場が共同で取り組むべきネットワーク組織なのだが、それができないのが現在の卸組織の課題でもある。

 同様な動きは、青果物流市場でも起こっている。(株)ムロオ(本社:広島県呉市)が九州で取り組んでいる「青果物のトラック共同配送と物流センターの共同利用実験」である。トライアルやイオン九州、地場の食品スーパーを巻き込んで、効率の良い農産物の配送を実現するための取り組みである。

 この仕組みの狙いは、花のFLSと同じである。低コストで速く農産物(あるいは農産加工品)を運ぶために、卸市場に代わって物流業者(ムロオ)と小売りチェーンが共同で物流を組織している。卸市場は、荷受け業者として、この場合も受け身でプロジェクトに参加している。未来の卸市場は、単なる「デポ(倉庫)」になっているかもしれない。

 

5.結論

 わたしが約20年前に、JFMA(日本フローラルマーケティング協会)を立ちあげたときに予言したことがある。

 当時あった約200の花の卸市場は、いずれ5つか6つに集約されるだろう。場合によっては、関西と関東の2社に集約されるかもしれない。実際に花の国オランダでは、当時7社あったフラワーオークションが1社(フローラホランド)に統合された。いまや、ドイツの市場も傘下に入って、欧州ではわずか1社のシステムに代わっている。

 いま目の前で起こっていることは、15年前の欧州マーケットの再現のように思える。いまや農産物の流通は、中間組織を必要としなくなっているのかもしれない。情報システムは、社会的に共同化されつつある。商流だけはユニークだが、低コスト物流を実現するには、社会共通のプラットフォームシステムが必要とされている。

 それでは、卸売市場はいま、どうような社会的な価値を生み出すことができるのか。花であれ青果物であれ水産物であれ、市場関係者は、いま大きな試練にさらされている。消滅の危機に立たされているといっても過言ではない。