昨年秋から、ファーストリテイリング(ユニクロ)は、全国の新店で切り花の販売をはじめました。現在、川崎北部(市場)がユニクロに切り花を供給しています。店頭を見る限りでは、フランスのモンソーフラワーのMD(商品と陳列)と似ています。
「ユニクロの花:16年後に実現した花販売」
『北羽新報』2021年9月28日号
(連載:その62) V2:20210925
文・小川孔輔(法政大学経営大学院教授)
花輸入専門商社のYMS(本社:大阪府)の坂本陽子社長から昨日(9月22日)、LINEにメールをいただきました。「ユニクロflowerが関西第一号店をオープン。花材の提供は、川崎北部だそうです」(坂本社長)。場所は、ユニクロ心斎橋店。その直後に、色とりどりの花束がディスプレイされている店頭の画像が、坂本さんから送られてきました。
2020年の秋から出店をはじめた「UNIQLO FLOWER」は、関東圏では、原宿店、新宿西口店、御徒町店など6店舗で販売されています。1束が390円、3束で990円。ユニクロらしい価格付けです。どの店舗も、ユニクロの看板がなければ、フラワーショップと勘違いしてしまうくらいです。印象的なのは、店内に掲げられているメッセージボードの文言です。
UNIQLO FLOWER
花と服には共通点があります。
人々生活に彩りを与え、より豊かにしてくれる。
そして、季節を感じられる。
服を選ぶように、花を選んでほしい。
さあ、花のある生活をはじめよう。
店舗の入り口に花を置くように提案したのは、柳井正社長だそうです。「花と服の共通点」を謳ったメッセージも、柳井さんがチ ャックした雰囲気があります。たぶんそうでしょう。
ユニクロが花を扱うようになったきっかけは、17年前のわたしの一言です。2004年11日5日のことです。『日本経済新聞』に、生花販売チェーン「花プレンティ」(大阪市:川端秀一社長)の自己破産記事(負債総額34億円)が掲載されていました。
その日、法政大学の大学院では、院生による「プロジェクトリサーチ」の中間発表会がありました。会場のボアソナードタワー26階会議室には、客員教授の柳井正会長(ファーストリテイリング)と坂本孝社長(ブックオフ・コーポレーション)が隣り合わせで座っていました。
朝10時の発表会が始まる前、会場の客員教授席に伺うと、「花プレンティ、倒産しましたね」が柳井さんからの”おはよう”の挨拶でした。ユニクロは、その春に野菜事業から撤退したばかりでした。翌日に、「野菜の後は、是非とも花事業に参入を」と書いたわたしのメールに、「しばらくは本業に専念するつもりです」と返信が戻ってきました。
ところで、ふたりの会話を隣で聞いていたブックオフの坂本社長は、わたしの顔を見てニコッと笑ってつぶやきました。「小川先生、これで怖くなって他社が入ってこないですよ。花事業はおもしろいかもしれませんね」。坂本社長は、花プレンティの倒産をチャンスだと考えたわけです。
後日談になります。坂本さんが創業したブックオフは、昨年から「ロスフラワー」(規格外で捨てられている短い花)の販売事業を始めています。ほぼ同じタイミングで、ユニクロも生花の販売をはじめました。
「ブックオフもユニクロも、いつか花業界に進出してきてくれるものと確信している」とその日のブログに書きました。それから16年後に、ユニクロからLifeWear(普段着)ならぬ、LifeFlower(普段使いの花)の提案が実現してしまったわけです。