商業誌とビジネス誌の「一気読み」を昨日敢行した。在庫一掃セールができた3誌のうち、『ダイヤモンド・チェーンストア』(DCS)の特集号(4つの号)を取り上げる。DCSが対象としていた5社は、日本を代表する食品SMである。それぞれが特色のある店づくりになっている。記事を読みながら、5つを比較論評してみたい。
2021年2月から隔週で取り上げられていたチェーンストアは、わたしが定期的に追っている小売企業ばかりだった。食品スーパーと言っても、単純に一つのカテゴリーでは括れない。
『ダイヤモンド・チェーンストア』(DCS)の記事の品揃えを見ると、2月1日号が「成城石井」、2月15日号が「ヤオコー」、3月1日号が「強いSMの作り方」(「サミットストア」にフォーカス)。3月15日号が「いま見るべき店2021」(ストアオブザイヤーに選ばれた「ビオセボン」と「ビオラル」)だった。
日本のSMの中では優良企業ばかりである。しかし、いまだに親会社も含めて多様な展開を見ている。記事を読んだ感想を述べてみたたい。
<成城石井>(DCS:2021年2月1日号)
創業者の石井良明さんが作った食品SMチェーンである。創業からの記録は、石井さんの著書『成城石井の創業:そして成城石井はブランドになった』日本経済新聞出版社(2016年)に収録されている(本ブログで、小川の書評を参照することができる)。石井さんは創業から30年で現役を引退している。2004年に「レックスHDGS」(牛角)に事業を売却し、現在は「ローソン」の子会社になっている。
レインズ(牛角)の子会社だったとき、今年から「西友」の社長に就任した大久保恒夫氏(IY出身、元ドラッグイレブン社長)が、低迷していた成城石井を立て直している。ちなみに、現社長の原昭彦氏は成城石井の「たたき上げ」の社長さんで、当時は大久保社長の直属の部下でもあった。
DCSの中で、大久保さんは成城石井の10年前の施策についてコメントを述べている。ポイントは、元IYマンらしく「基本の徹底」だった。もともとしっかりした組織と人材に恵まれていたので、商品調達面での優位性を、商品のプレゼンテーションの仕組みと店頭オペレーションの改善によって成し遂げた。それと、レインズ傘下で抑制されていた海外出張を復活させたことである。
成城石井のビジネスモデルは、「トレーダージョーズ」や「スーパー福島屋」との類似性を感じさせる。広い意味で、食品スーパーが生産段階への関与を深めた「垂直統合モデル」である。ちがいは、商品のセレクトの方法とコアとなる中心顧客層である。一般に、成城石井のコア顧客は、都市の富裕層だとみなされていた。
ところが、DCSが調査したところによると、中心顧客層がわたしたちの想像とはちがっていた。コロナ禍で既存店の売り上げが約10%伸びているが、客数が10%程度落ちたのを、客単価の上昇(約20%)で補っている。ターミナル駅や駅周辺の都心型立地が中心で、主要顧客層には男性が含まれている(43%)。
したがって、即食性が高いパン・ベーカリーやスイーツ、惣菜の伸びが大きかったことがデータで示されている。都市中心部でコンビニが失った需要を成城石井が拾っていることがわかる。しかも、商品単価が決して高額ではないので、買い上げ点数を伸ばしたと考えれれる。コロナ禍で抑圧された「褒美消費」でもあったと解釈できる。
<ヤオコー>(DCS:2021年2月15日号)
拙著『しまむらとヤオコー』(小学館、2011年)で、ヤオコーの創業からの歴史を書かせていただいた。いまでも、二代目経営者の川野幸夫会長とは、新店舗の開店で直接お会いしたり、電話で会話をすることが多い。いまの「食生活提案型の個店経営チェーン」を創ったのは川野会長である。事業の社会性を考慮する謙虚な人柄が、ヤオコーの好業績を支えている。
DCSの特集号(ヤオコー=最強スーパー)では、同社の「死角のなさ」が強調されていた。店舗運営、商品開発力、人材育成(店長、パートナー)、財務体質、デジタル対応(DX)、事業戦略(PB強化、品質向上)、どれをとっても競合のSMと比較して群を抜いている。大塚明氏(元ヤオコー常務)の解説によると、ヤオコーの強さの秘訣は、①人材開発、②小商圏ドミナント戦略、③提案型MDの成功の三点で整理されている。
さらに二点を付け加えると、30年前に他社が「地理的な事業展開」と「多角化路線」を選んだのに、ヤオコーはかたくなに、④関東ドミナント出店、⑤食品SMフォーカスでぶれなかった。死角があるとすれば、川野会長の健康状態だけではないだろうか?増収増益は32期を超えることはまちがいない。他のSMがヤオコーをまねることは難しそうだ。
<サミットストア>(DCS:2021年3月1日号)
たまたま、先月、「インファーム」(ドイツ企業、都市型室内農場の運営会社)の「野菜栽培ユニット」を設置したのが、サミットストアの五反野店(東京都北区)だった。友人の平石郁生さん(インファーム・ジャパン代表)が、野菜栽培ユニットを設置する先進的な取り組みで、提携相手として選んだのがサミットだった。
DCS(3月1日号)では、その他の強いSMを取り上げているが、わたしの観察でも、都内のスーパーでは、サミットの躍進が目立っている。サミット創業者の荒井伸也さんが社長だったころと比べると、店舗での買い物に「わくわく感」(ある種の高揚感)を感じるようになった。2020年4月、社長に就任した服部哲也氏のインタビューでも、一貫して「情緒的価値」が強調されていた。
荒井さんが築いた合理的な社風(機能的価値の強調)に、新社長のエモーショナルな店舗づくりが上書きされている感じがする。消費者からの期待が大きいのではないか?都市部郊外のヤオコーに対して、成城石井とサミットは、消費者に異なる価値の提供を目指しているように見える。
<ビオセボン、ビオラル>(DCS:3月15日号)
「いま見るべき店2021」の特集で、ストアオブザイヤー2012に、「ビオセボン(コレットマーレ店)」(19位)と「ビオラル丸井吉祥寺店」(3位)が選ばれていた。ビオセボンは、イオン傘下のオーガニックスーパー。21店舗目が横浜の店舗。本国のビオセボンが破綻しているのと対照的に、日本国内はイオン傘下で順調に店舗数を伸ばしている。
ビオラルのほうは、ラウフコーポレーション傘下のオーガニック系のSMである。2016年に大阪の靭店が開店したが、二号店が出るまで5年の歳月を有している。大阪の店舗は、有機野菜だけでなく、グルテンフリーやアレルギー対応などの商品を揃えて、品ぞろえはおもしろかった。しかし、当初から苦戦が続いていた。関東に二号店はうれしい知らせではある。
オーガニック、アレルギー対応の店舗がもっと増えていってほしい。こちらも、多様なSM業態のひとつではある。