日本の4大干拓地の一つが、岡山県笠岡市にある。秋田県の八郎潟に次ぐ大きさで、干拓面積は約1200ヘクタール。農水省が約300億円を投じて1966年に始めた事業だった。約380ヘクタールは未入植のまま残されていた。そのうちの20ヘクタールの敷地を利用して、オランダ式の軒高8メートルの巨大ガラス温室約13ヘクタールが建設された。
事業の構想は2016年。事業主体は、株式会社サラ。昭和26年と27年生まれの3人が始めた最新鋭のハイテク野菜栽培事業である。栽培されている野菜は、パプリカとトマトとレタスの3種類。
この巨大温室群には、熱源とCO2を供給しているバイオマス発電所が併設されている。四国電力に20年固定価格で売電しているので、年間の収益は約20億円。発電施設への総投資額は55億円。それだけでも採算は取れるのだが、事業的に興味深いのは、野菜の生産販売事業を持続可能な発電事業で補うハイブリッド型の事業を野心的に試みたことである。
昨日、縁があってこの巨大温室群とバイオマス発電所を視察することになった。案内役は佐野泰三取締役COO(68歳)。食品メーカーのカゴメ元社員で、トマト温室を全国10箇所に作った農業技師者である。1980年代に、米国の加州でトマトを栽培していた経験を持つ。佐野氏はカゴメを退職した後、元県会議員の小林健伸CEO(68歳)と、病害虫のスペシャリスト和田哲夫取締役(67歳)の3人チームで、アジア最大の持続可能なハイテク温室のプロジェクトに関与することを決めた。
岡山県の瀬戸内海沿岸部は、日本で2番目に日照量が多い地域として知られている(日照量のトップは、山梨県の北杜市(明野)。また、瀬戸内海は気候が温暖で台風が来ないことでも有名である。温室群は4つのエリアから構成されている。トマト栽培棟6ha、レタス棟2.5ha、パブリカ棟3.4ha。出荷棟1ha。
栽培技術面での特徴は、次の三点である。
1. レタスの栽培はほぼ無人で運営されている。播種から収穫直前まで、12メートル長の細長い移動ベンチ(呼び名を忘れてしまった)に定植されたジフイーポットが、温室内を栽培状況にしたがい自動的にコントロールされて移動していく。
2. バイオマス発電熱で温室が冷暖房されている。エネルギーコストがかからないどころか、温室内へ光合成を促進するためのCO2が供給されている。
3. 作業員の労働投入時間と生産性がデータで管理されている。いわゆるロケーションシステムが、栽培ロットごとの温室内環境の変化と、一人一人の労働生産性を関連づけている。この情報は、同じような温室を持つ世界4カ国の生産施設(フランス、オーストラリア、オランダ)と共有されている。基本はオランダの技術である。
1. レタスの栽培はほぼ無人で運営されている。播種から収穫直前まで、12メートル長の細長い移動ベンチ(呼び名を忘れてしまった)に定植されたジフイーポットが、温室内を栽培状況にしたがい自動的にコントロールされて移動していく。
2. バイオマス発電熱で温室が冷暖房されている。エネルギーコストがかからないどころか、温室内へ光合成を促進するためのCO2が供給されている。
3. 作業員の労働投入時間と生産性がデータで管理されている。いわゆるロケーションシステムが、栽培ロットごとの温室内環境の変化と、一人一人の労働生産性を関連づけている。この情報は、同じような温室を持つ世界4カ国の生産施設(フランス、オーストラリア、オランダ)と共有されている。基本はオランダの技術である。
先端技術の優位性には問題がない。技術的には、この先もさらに改善が進んでいくだろう。気候変動の激しい今、安定的な野菜供給源として、またバックアップ生産施設としてこの施設は優位な位置にいる。しかし、大量にとれた野菜の販売では、課題が山積みであるように見える。アジア最大の温室野菜事業の最大のネックは、マーケティングと営業活動である。
パプリカは、国内消費の90%を占めている韓国産品と直接的に競合する。日韓ともオランダの品種と技術だから、結局は価格勝負になる。物流コストと為替勝負になるが、ウォン安が続いている。日本国は、コスト的では不利な環境にある。ただし、ロジスティックはサラの方が優位にあるだろう。
栽培規模が最も大きいトマトの販売は、かなり苦戦しそうだ。国内供給は過剰気味で、佐野取締役の前職、カゴメでも栽培事業は利益が出せていない。ヨーロッパから導入している品種なので、生産性と輸送性には優れている。問題は、レッドオーシャンのマーケットで生き残れるかどうか。
レタス事業は、フレキシブルな生産方式が可能性を感じさせる。ただし、価格競争力に疑問が残る。視察後に訪問したエブリイ(本社:広島県福山市)の店頭には、サラのレタスとほぼ同じボリュームのものが百円で売られていた。現状では、サラのレタスは1株の売価が248円。プロモーション価格で198円。消費者は、エブリイの農場で生産されたレタスを間違いなく選んでしまうだろう。
パプリカは、国内消費の90%を占めている韓国産品と直接的に競合する。日韓ともオランダの品種と技術だから、結局は価格勝負になる。物流コストと為替勝負になるが、ウォン安が続いている。日本国は、コスト的では不利な環境にある。ただし、ロジスティックはサラの方が優位にあるだろう。
栽培規模が最も大きいトマトの販売は、かなり苦戦しそうだ。国内供給は過剰気味で、佐野取締役の前職、カゴメでも栽培事業は利益が出せていない。ヨーロッパから導入している品種なので、生産性と輸送性には優れている。問題は、レッドオーシャンのマーケットで生き残れるかどうか。
レタス事業は、フレキシブルな生産方式が可能性を感じさせる。ただし、価格競争力に疑問が残る。視察後に訪問したエブリイ(本社:広島県福山市)の店頭には、サラのレタスとほぼ同じボリュームのものが百円で売られていた。現状では、サラのレタスは1株の売価が248円。プロモーション価格で198円。消費者は、エブリイの農場で生産されたレタスを間違いなく選んでしまうだろう。
サラのような大規模生産事業が成功するためには、次の3つの可能性を追求すべきではないかと考える。
1. 現状の販売システムでは、メインの顧客がB2Cで組み立てられている。最終消費者をイメージして、チェーン小売業者を相手に狙うのは危険のように思う。むしろ加工業者やフードビジネスを狙うべきではないのか?B2Bにターゲットを切り替えたほうが、この規模と安定的な野菜の供給を必要としている需要者のニーズにマッチしている気がする。
2. これと関連して、品種的な差別化を考えるべきではないか?佐野泰三取締役が取材中に熱心に話されていたのは、パプリカやトマトの新しい品種や食べ方でこれまでにない市場を作りたいとおっしゃっていた。その通りだと考える。この規模の栽培面積だと、差別化された商品でないと付加価値の付いた市場を作り出さない限り、価格競争で疲弊してしまう。
1. 現状の販売システムでは、メインの顧客がB2Cで組み立てられている。最終消費者をイメージして、チェーン小売業者を相手に狙うのは危険のように思う。むしろ加工業者やフードビジネスを狙うべきではないのか?B2Bにターゲットを切り替えたほうが、この規模と安定的な野菜の供給を必要としている需要者のニーズにマッチしている気がする。
2. これと関連して、品種的な差別化を考えるべきではないか?佐野泰三取締役が取材中に熱心に話されていたのは、パプリカやトマトの新しい品種や食べ方でこれまでにない市場を作りたいとおっしゃっていた。その通りだと考える。この規模の栽培面積だと、差別化された商品でないと付加価値の付いた市場を作り出さない限り、価格競争で疲弊してしまう。
3. サラのような安定供給システムは、気候変動に悩まされる日本の農業に対して、大きな可能性を提供することになるだろう。その際は、天候変化や市況を織り込んだ、価格変動のマネジメントを人工知能を用いて構築する必要がある。