ブログの記録をたどってみたら、高島さんにお会いした最後は、2014年1月21日でした。場所は、法政大学ボアソナードタワー。5年前のJFMA新春セミナーで、基調講演者は相模屋食料の鳥越淳司社長。高島さんのほかに、リンクフローリストの河野恵美社長と青山フラワーマーケットの井上英明社長がパネラーでした。モデレーターのわたしが、「名だたる美男美女揃いではないですか!」とコメントをしていました。
今回のインタビューは、『食品商業』の「農と食にイノベーション」のシリーズ連載の13回目のためです。5年ぶりのインタビューは、開口一番、高島節がさく裂しました。
「いや、(ミールキットの開発で)参考にしている会社とか、とくに競合とかとくにはないんです」「マクロの経済指標(産業規模の予測)は見てないんですよね」。わたしが、「ミールキットの原型は、ロック・フィールドさんで、、、」との質問に対する返答でした。
2017年から2018年にかけて、「らでぃっしゅぼーや」と「大地を守る会」を経営統合して、会社の規模は大きくなっています。傍から見ると、自然・オーガニック系の宅配サービスではオイシックスが独占状態になっています。生協系のEC事業が唯一の競争相手かもしれませんが、それにしても基本コンセプト(時短だけど誇らしい食事)は、生協の宅配とは一線を画しています。
ターゲットもちがいます。オイシックスの日本国内での市場のポジショニングは他ブランドとは異質といえるのでしょう。
インタビューの内容は、上・下に分けて、次回の連載で詳しくお伝えします。
わずか45分のインタビューでしたが、以下は質問に対する高島さんの回答メモです。
1 オイシックスのミールキットについて、
①開発の始まりと供給の仕組み
→ 2013年7月、自社のテストキッチンでスタート。コンセプトは、「うしろめたくない時短」。これだとネガティブな感じになるので、「自分で料理をするより付加価値がつく」を前面に打ち出す。エアークロゼットのビジネスモデル(天沼聡社長)と対応する消費者心理は似ています。
ミールキットの採用=カーナビの利用。つまり、カーナビの地図=「レシピ」で、車の運転=「調理技術」。思いもかけないものが作れることが、ミールキットの付加価値。高島さんは、ミールキットを「気持ちの良いチャレンジ」と呼んでいました。
*わたしの感想:調理技術のある人が減ったことと、ゴミが出ないメリットもある?なので、わたしの周囲では、ミールキットが増えてきて、オイシックスを退会する人も出てきてはいる。
②現状(累計3500万食)と将来性(競合はどこか?)
→ まだスタートしたばかりで、規模がどうこういう状況ではない。(資料をいただきましたが、)米国では、1000億円規模のミールキットの会社が二社。2019年で37億ドル(約4000億円)の市場になっている。競合は考えていない。
*コメント:むしろ市場創造のためには、たくさんの企業に参入してほしい?
③関与している外部人材、ないしは提携企業
→ 料理研究家、タレントさん、クレヨンしんちゃん(レシピでキャラクター活用)、スノーピークス(BBQセット)など、多種多様。熊本県(くまモン)など、地方の自治体などとはコラボがやりやすい。その理由は、ミールキットそのものが、小ロット生産に乗りやすいから。ほぼ1000個が基本ロット。最低10個から作ったこともある。
*コメント:このへんは、おもしろい示唆が得られた。というのは、ミールキットは、「延期型の生産方式」が採用できるビジネス領域(従来のファストフードなどは、「投機型の生産方式」)。しかも、オイシックスは自社製造(SPA)なので、開発が1から2か月で商品がリリースできる。なお、地域や自治体とのコラボができるのは、「自社で小ロット生産」が可能だから。
2 Purple Carrot(PC社)を買収した意図
①事業のシナジーをどのようにみているのか?
→ 事業が似通っている(広報資料)となっているが、本音を言えば、PC社の経営者とは「馬があう」。シリコンバレーのベンチャーにありがちな金で動く人ではないところが、信頼できると感じた。社長の人柄。ただし、狙いは、「日本のシステムをPC社に、PC社のヴィーガンレシピを日本に移植すること」。事業場のシナジーはあるはず。おもしろいチャレンジです。
*コメント:わたしが「海外の企業買収はほとんどうまくいかないですよね」との発言に対する反応がこれでした。
②植物食(ビーガン食)の5年後の規模は?
→ おもしろいと思っている。資料をいただきました。1兆円規模になる?
*コメント:わたしからも資料(来週訪問するオランダの研究者:ハリー・Aiing氏のレビュー論文)を手渡す。
③PC社の特徴
非ヴィーガン系の顧客が全体の8割。狭い市場フォーカスだと限界があるが、そこのところが同社の将来性を感じたところ。創業から5年で50億円規模に成長している。
*コメント:わたしから、英語で「フレキシテリアン」(週一回のベジタリアン、ヴィーガンのこと)の概念を紹介しました。納得されていました。
3 大地、らでぃっしゅとの経営統合
①食品宅配市場において、真の意味で競争優位を獲得できたか?
→ 3つのブランドが統合したことにより、二つのことが達成できた。
・食のサブスクリプションモデルの資産や蓄積されてきたノウハウ(後述)
・優れた生産者ネットワーク(オイシックスと他のブランドとの重複は小さかった)
これらが集結したことで、経営のシナジー効果が生まれている。例えば、らでぃっしゅぼーやの事業では、サブスクリプションモデルのノウハウを活用することで、早期の黒字化が実現できた。具体的には、オイシックスの顧客データ分析・管理法(LTVを活用した顧客価値の数字化)を他ブランドに適用すると、打ち手が見えてくる。
他ブランド(らでぃっしゅ)では、デモグラフィックな指標で顧客対応していたが、実際に意味のあるのは、購買行動変数。たとえば、その顧客から、そのブランドが「何屋」に思われているかが大切。例示:野菜しか買わない「八百屋」でなく、冷凍魚を買うようになったら「客単価が変わる」(総合ネットスーパー的な利用になる)。
魚を買わせるうように販促をかけると、結果としてブランド(店)の顧客価値が変わることがある。これは、ブランドによって異なる。高島さんは説明しなかったが、オイシックスにとってのミールキットも同じ位置づけになるのだろう。
②統合のメリット(2)
→ 両ブランドを経営統合し、コスト管理を徹底しただけで利益が出るようになった。それまでの働き方を変えた効果も大きい。オイシックスとらでぃっしゅと大地を横に並べて、基本顧客データを比較すると、それぞれの強み弱みが見えてくる。これは、単一のブランドだとできないことです。
*参考:あるインタビューで、こんな高島語録が掲載されていました。
「私の社長としての仕事は、評価指標を考え、決めることだと言ってもいいでしょう。経営全体の指標は主に5つあります。「売上」「限界利益(売上高-変動費)」「新規顧客数」「やみつき率(一定頻度で購入する顧客の割合)」そして「特定セグメントのサヨナラ率(顧客が離れてしまった率)」です。経営幹部が集まり、週に一度確認しています」
*コメント:オイシックスら大地を、カーナビにしたがって運転(経営)する?理科系出身のトップの特徴です。
③この先の展開で、ひとつのブランド統合する予定なのか?
→ 会社は1つになったが、ブランドは3つを残したままで統合の予定はない。それは、各ブランドごとお客様が求める価値が異なるため。会社が1つになったことで、各ブランドごとの提供価値のすみわけもしやすくなった。
以上、いくつかの疑問が氷解しました。講義の大学院の授業では、わたしと対談することを約束してくださいました。法政大学の大学院生で、「ビジネスイノベーター育成セミナー」を受講する学生はお楽しみに。
<付録>オイシックスら大地(経営指標、決算説明資料から)
(1)売上高317.2億円、限界利益11.1億円
・オイシックス 137.6億円(+120%) 19.4億円(+139.6%)
・大地を守る会 54.4億円(99.1%) 9.6億円(98.1%)
・らでぃっしゅ 99.2億円( - ) 17.6億円( - )
・その他 27.5億円(+127.4%) 2.9億円(75.7%)
*2019年3月期(上期指標)
(2)会員数、APRU(月平均購入額)
・オイシックス 18.9万人 11,127円
きっとコース会員 8.7万人(+141.1%)
・大地を守る会 4.9万人(+112.3%) 17,973円
・らでぃっしゅ 8.0万人(91.0%) 16,394円
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