魔法の国でさらなる異変が: 東京ディズニーリゾートも「マクドナルド症候群」に陥ってしまったのか?

 JCSI(日本版顧客満足度)の2015年度(第3回)の調査結果が発表になっている(2015年9月30日)。エンタテインメント部門で大きな変化が起こった。TDRが大きくスコアを落としたことである。TDRのCSスコアは77.9点。前年度(82.7点)から4.8点の大幅なダウンになる。



 <主要5社のCSと関連指標>
 全サービス業でトップだった2013年度(86.8点)からでは、なんと8.9点の下落である。テーマパークの競合の2社(USJとハウステンボス)との満足度の差が接近している。また、エンターテインメント業界の覇者(劇団四季、宝塚歌劇団)とは圧倒的な差がついてしまった。

                TDR    劇団四季  宝塚歌劇団   USJ  ハウステンボス
  2012年    85.7       86.2       79.6         
  2013年    86.8       86.1       82.8          71.1     70.5
  2014年    82.7       84.6       82.1          72.3     72.2
  2015年    77.9       87.5       84.5          72.2     71.7

 なお、JCSIの主要6指標で見ると、知覚価値(お値頃感)とロイヤルティ(継続利用意向)の低下が大きい。また、この業界で長期的に満足度を高める要因である。感動指数(Delight Index)と失望指数(Disappointment Index)で、TDR顧客からの支持を失いかけている(カッコ内は、劇団四季の数値)。
 
 東京ディズニーリゾート(劇団四季) 
   TDR    知覚価値  ロイヤルティ  感動指数  失望指数 
  2013年    78.5(82.0)   81.7(78.3)    84.9(83.8)   17.8(9.8)   
  2014年    74.8(80.9)   77.8(73.0)    81.4(82.8)   20.3(11.1) 
  2015年    67.9(83.3)   70.0(75.3)    79.2(84.8)   23.8(7.9)

 <マクドナルド症候群>
 象徴的なのは、値ごろ感の喪失(10.6点のダウン)と失望感の高まり(5点のアップ)である。顧客満足度のこうした急速な低下は、2012年から2014年にかけて、マクドナルドが経験してきた現象(サービスに対する低い評価に続く客離れ)とよく似ている。一年前の2014年10月22日(前回のJCSI調査発表時)に、筆者がブログに書いて記事を引用してみる。

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 (前略)
 理由はいくつかあるのだが、基本的には、「イールド・コントロール」の問題であると考える。別名で、「マクドナルド症候群」と呼ばれる現象である。日本マクドナルドのCS低下を例にして、CSが落ちていくロジックを説明する。
  すべての引き金は、顧客満足を犠牲にして、売上と利益を取りに行くためである。TDRとマクドナルドに共通しているのは、その背後に米国本社の意向があることだ。つまり、米国から見ると日本は大事な収益源になっているために、現地の事情をよく知らずに、数値(売上と利益)だけで日本事業をコントロールする傾向があることだ。
  本社のゴール設定は、(対前年比での)集客数や最終利益になる。となると、まずは、テーマパーク内の「混雑度」が無視される。本当はイールドコントロール(操業度:キャパシティにあわせた入場制限)をすべきところが、収益を重視する本社の意向で、「バルブ」を閉めることができなくなる。
  TDLの開園の頃に行った経験では、むかしは長い間並ばないと乗り物に乗れないことはなかったはずである。

  常軌を逸した混雑の結果は、接客従業員であるキャストの対応がおざなりになることである。やりたくても、もはやサービスができない。そして、場内の施設、たとえば、乗り物やレストランの待ち時間が長くなる。そして、時間帯によっては乗れない顧客が出てくる。
  さらに悪いのは、ファストパスが奪い合いになったり、乗り物などで優先権がある「プレミアムツアー客」などが優先される。そのために、どちらも持っていない一般客(いまや半数)が置き去りにされる。日本人は、たとえ金を払っていても、特定の客が差別的に優遇されることにはとても厳しい。
  そして、もう一方の問題は、コスト削減である。例えば、たとえ行列が長くても、そこに「所在なさ」を紛らわしてくれるパレードが来たり、パフォーマンスがあれば、列待ち客の気分は紛れるだろう。待ち行列をそれほど気にもかけない。 しかし、数十億円単位で、そうした人員に対する人件費がカットされている、という話を聞いている。大丈夫なのだろか?心配になる。

  マクドナルドのCS低下の最大の原因は、利益が欲しいために、店舗のキャパシティ以上に客数を増やそうとしたことである。メニュー表の撤去や、60秒キャンペーンもそのための方策だった。 米国本社は、売上高の3%を得ているから、売上が増えればうれしい。また、マクドナルドのカナダとシンガポール(株を50%保有)は、配当で利益を上げている。
  しかし、サービスが劣化し、店舗が汚れ、居心地がよくなくなった。これが、まさに「マクドナルド症候群」である。あれほどCSが高いTDRで、それが起こりそうなのだ。いまならば、対応は遅くない。バルブはきつく閉めるべきだ。しかも、日本人の手で、、、

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 <魔法の国で進行していること>
 この記述は、ちょうど一年前のものである。もちろん、この現象を裏打ちできる来園者へのアンケートも実施している。静岡県のモニター調査で、2年以内にTDRを訪問した人のCSを調べたが、定性的にもCSが落ちていることが判明している。わたしの印象記とJCSIのデータだけからTDRの問題を議論しているわけではない。
 その証拠をいくつか紹介する。主要6指標と同時に調査しているSQI(サービス品質指標:7点満点)が、魔法の国がマクドナルド症候群にかかっている予兆を示している。サービス業で重要なのは、SQI(サービス水準、サービス品質、清潔度)+V(お値頃感)である。さらに言えば、サービスが提供される舞台の雰囲気(アトモスフェリックス)だろう。
 具体的な指数の3年間の変遷を示してみよう。

  (*文言を多少変えてある)   2015年  2014年  2013年  
 ・C:全体的に清潔感がある     6.06  6.11   6.33 
 ・A:会場や施設の雰囲気がよい   6.12  6.18   6.43 
 ・S:従業員はつねに礼儀正しい   6.02  5.90   6.11
 ・S:お客さんの数が程度である   3.64  3.44   3.45
 ・Q:サービスに他のない特徴がある 5.67  5.91   6.09

 2014年度中に値上げをしたことで、混雑度が多少緩和されていることを除けば、すべての項目(QSC)でサービス水準が厳しく評価されている。この間に、競合3社にはほとんど変化がないので、TDRが緩やかに競争力を失っていることがわかる。
 この先に来る事態を予想することは難しいが、数年後に開業する予定の新しいテーマパークに、5000億円を投じるために資金が必要になる。その原資を値上げと増客で獲得しようとすると、さらにCSが低下する可能性があるのではないのか。
 オリエンタルランドの資本構成やディズニーに対するロイヤリティフィーを考えると、魔法の国を上手に運営する難しさを心配してしまう。